今まで、を異性として見たことなどなかった。


ただの仲間。
それ以上でもそれ以下でもない。そう思っていた。

抱えあげたの体は、あまりにも軽くて。あまりにも冷たくて。
少し力を加えればすぐに折れそうな腕。細い肩。

その時初めて、は女なのだ、と認識した。
そんな当たり前の事にすら、今まで気づかずにいた。


それから、何だかのことが気にかかって仕方がない。


頼りないわけではない。ただ、ほっとけない。


だから、自分が彼女の傍に居て、守ってやろう。
これからは、いつでもと居ればいい。


そんな風に考え始めている自分を知り、少なからず驚いた。
こんなに自分は心配性だったのだろうか?と。だが、けして嫌な気分ではない。

今、その事に気がついたばかりだから。

まだ始まったばかりだ。
だから、この気持ちが何処へ向かうのか、まだ解からない。

その答えは、きっと彼女が持っている。
















  Stage by Stage stage2














が部屋でごろごろとくつろいでいると、不意に着信が鳴った。携帯に手を伸ばす。


「フェイタンから……」


は座り直すと、通話に切り替えた。


「もしもし?」
、次は参加するのか?』
「仕事?」


次の仕事は、確か自由参加の筈だ。


「あー、うん、勿論! フェイタンは参加するの?」
『……そうね。参加するよ』
「そうなんだ! じゃあ、また現地で!」
『ああ』


通話が終了する。切るのも早い。
ただそれだけの、素っ気ない業務連絡のような電話。しかし、確実に――。


「よく電話がくるなぁ……嬉しいけど」


フェイタンからの連絡の頻度は高くなっていた。
最初に突然電話がかかってきた時は、何故!?と驚いて、それこそ電話に出るのも躊躇したものだが――もう慣れてきた。

招集の一斉連絡があると、必ずといって良い程確認の電話がくるのだ。
何故かわからないが、嫌な気はしない。


(フェイタンも居るのかー)


良かった、と何となく思う。自然と口元は緩んでいた。
そろそろアジトに向かおうか、とは伸びをしながら立ち上がった。





+++++++++++++++





アジトに到着した時、すでに日は傾きかけていた。
が最後の一人だったようで、既に他のメンバーは広間に集まっている。

今回は、なかなか人数が集まって――ああ、フェイタンがいた。


「フェイタン!」
「来たか」


集団の中にフェイタンの姿を見つけ、は手を振ってみた。
手を振り返してくれる――なんて事は流石に無いが、視線で応じてくれた。

そんな中、シズクがに寄ってくる。


「やっほー」
「シズク、久しぶりー」
「久しぶり。どうしたの、最近フェイタンと仲良し?」
「うん、そんな感じー」


そうだと良いな、という願望も含めて、は照れたように笑った。

フェイタンは――と様子を盗み見るが、特に何も反応はない。
否定はされなかったので、は内心ホッとした。

シズクはそんなの顔を、じっと覗きこんでいる。


、ちょっと変わった?」
「え、どこが?」
「うーん……なんていうか、雰囲気? 穏やか」
「そ、そんなにピリピリしてはいないと思うんだけど……」
「そうだよね」


シズクと掴みどころがない会話を交わしながら、予定時間が来るまで待機することにした。

今回もパクノダやシャルナークが居る。加えて、フィンクスとシズクも。


「では、分かれるか。フェイタンとフィンクスは東。俺とシャルは西。シズクと、パクは状況に応じて」
「わかったー遊撃隊ってことね」


きっちり決められた通りにやるよりも、好きにやっていいと言われた方が気楽では好きだ。
地図や間取りを見比べながら、さて今回はどうしようかなーと考えていると。





フェイタンに名前を呼ばれ、は顔を上げた。フェイタンがこちらを見ている。

今たしかに呼ばれたよな……と思い近寄ってみた。


「なーに?」
「こちらへ来るといいね」


周囲の視線が、一瞬にして二人に集まる。

誘われて嬉しいは、周囲の意味深な視線にはまるで気づかない。
わざわざフェイタンが声をかけてくれるなんて、とニコニコしている。


「うん、お願いしますー」
「おう、よろしくな」


フィンクスも快く迎え入れてくれた。
は元々どちらかといえばフィンクスとよく話してたのに、今はフェイタン一強だ。


「じゃあ、あたしとパクは団長側かなー。攻撃過多だよね、そっち」
「あはは、そうかもー。もう一回、地図見てくるね」


は再びシャルナークの元へ。
フェイタンが彼女の後姿を目で追っていることに、目ざといフィンクスは気づいていた。


が気になるのか?」
「……別に」


フィンクスが軽口を叩いてみたが、フェイタンは渋い顔だ。

傍から見ていると、一挙一動を気にしているようにしか見えないのだが。
フェイタンは涼しい顔で、素っ気なく返す。

パクノダもまた、フェイタンの様子が普段と違うことを見抜いていた。
やシズクと一緒に図面を眺めながら、パクノダは小さく呟いた。


「この間から、やけにを気に掛けてるわね」
「この間?」
「前の状態がショックだったのかしらねー」
「ショック? 何が?」


シズクはきょとんとしている。
そういえばシズクは知らなかったな、とパクノダは補足した。


「ああ……あのね。この前とフェイタンが組んで、その時に酷く怪我をしたの」
「え、。怪我したの? 平気?」


シズクの声を受けて、はひらひらと手を振った。


「うん、もうバッチリー。あの時はありがとうございました」
「いいのよ。もう無茶しなければ」
「あははー……善処します」


は苦笑いを浮かべるしかない。
あの時は本当に迷惑をかけてしまったから。


「どこにケガしたの?」
「足とか撃たれたよー」


傷跡みせて、とシズクにねだられたは、スカートの裾を太ももまで捲りあげた。
シズクは遠慮なしに、しげしげとの足を見聞している。


「わー、撃たれてるねー」
「でしょー」


女性陣は呑気に談笑している。


「おい、。見えるぞ。しまっとけ」
「はーい。って、フィンクスには見て良いって言ってないのにー」
「隙あらばだよねー本当」
「お前らな……」


はあ、とフィンクスは大きくため息を吐いた。
女性陣に口では敵わない。まあ楽しそうで何より、と背を向ける。

――フェイタンの視線が、やや険しい。

視線の先には、楽しそうに笑うの姿がある。


「フェイタン、お前……」


どうかしたのか、とフェイタンは視線で問う。どうもこうもない。


「やけに構ってんじゃねえか、あいつに」
「……。そうか?」
「ああ。どういう心境の変化だ?」


が言うには、電話までかけてくるらしい。らしくないにも程がある。

フェイタンはしばらく考え込んだ後、小さく首を振った。


「別に……変化があるわけではないね」
「……ふーーーん?」
「何か文句が?」
「いや? 別に?」


自覚がないのか、隠そうとしているのか。
なかなか面白そうなことになっているようだが、下手に突っつくとフェイタンがキレる。

まあ女に興味があるのも良いことだな、とフィンクスは勝手に納得した。





++++++++++++++





仕事は滞りなく終わり、団員は各々好き勝手に過ごしている。
アジトに残る者、外へ出る者、様々だ。

はしばらくここに残るつもりだった。
特に予定もないし、シズクもしばらく居ると言うし。

一度部屋に戻ろうとした時、シズクから声をかけられた。


、ご飯いこうよ」
「うん!」
「あ、俺も一緒に行っていい?」
「いいよー、行こ!」


シャルナークも乗ってくる。
断る理由もなく、は快諾した。


「辛いの食べたい気分かな」
「えー、あたしは嫌だ」
「そうね、シズクは辛いの苦手だっけ」


じゃあ辛くないものにしよう、と言いかけたに、シズクが先手を打った。


「あたしはシャルと行くから、はフェイタンと行ったら?」
「フェイタン?」


そういえば、彼もまだ残って居たことを思い出す。
そこに、とシズクが指差した先を見れば、フェイタンが居た。しかし、クロロやフィンクスと話し込んでいる。

はフェイタンを見つめながら、どうしようか考えていた。
そういえば、フェイタンと食事に行ったことはない。彼の嗜好がどんなものかも知らないな、と。


「ん……声かけてみよっかなー……でもフィンクスも一緒に居るし、邪魔かもしれな」
「フェイタンー」
「ちょ、ちょっとシズク!」


このシズクの躊躇いの無さは、見習うべきかもしれない。
の焦る声をまるごと無視し、シズクはフェイタンに手招きをした。

フェイタン達は会話をぴたりと止めると、何事かと近づいてきた。
は何故かどぎまぎして――どんな顔をしたらいいのかわからない。何て言えばいい?


「何か用か?」
「あ、あのね、用っていうか」
がフェイタンをご飯に誘いたいんだってー。行ってあげたら?」


まごまごしている内に、シズクがさらっと言ってのける。はいよいよ凍りついた。


(シズクー!!!)


ちょっと待て、と制止するタイミングを悉く失ってしまった。
そうっとフェイタンの様子をうかがえば、フェイタンも固まっている――ように見えた。

言葉が出てこなくなって、あーとかうーとか意味の無い音ばかりが口から出る。


(違うって言うのは変だし、違わないんだけどー! 誘おうとしてたんだけどー!)


さらっと言えば良いだけだ。シズクのように。そんな、思わせぶりな理由なんてないのだと。
それなのに何故、こんなに動揺しているんだろう。

混乱の最中にフェイタンと目が合ってしまい、尚更は石のように固まってしまった。


フェイタンも何も言わない。
も何も言えない。


どうするんだこれ、どうしたらいいんだろう、と頭がぐるぐるする。

二人のぎこちない様子を、他の団員達は面白そうに眺めていた。
と、見かねたフィンクスが助け船を出してくれた。


「何だ、デートか? 仕方ねえな、俺も付き合ってやるよ」


しかし、シャルナークは呆れたように首を振った。


「フィンクスはお呼びじゃないって。邪魔しないであげなよ、せっかくが勇気出して誘ってるのに」


誘ってない。


「そうかー? ほっといてもいいけど、間が持つのか? この二人」


失敬な。


「……それもそうか。最初から二人っきりはハードル高そうだねー」


今まさにハードルを上げてるのはあなた達な訳だが――あんまりな言い草に、色々と突っ込みたい。

しかし、口を挟む隙がない。
どんどん話が進んでいく。肝心の二人は置いてけぼりだ。


「じゃ、皆で行こう? それでもいい? 、フェイタン」


良い案を思いついた、とシャルナークがにっこり笑う。


「……うん」
「……ああ」


何とかそれだけを口にする事ができた。
楽しそうな一団のやや後方について、二人も遅れて歩き始める。


「……何か……ゴメン」
「……別に、が謝る必要はないね」



フェイタンは慰めてくれたが、の気は晴れない。
もう完全に玩具にされていることは明らかで。

楽しい(?)食事会も何とか終わり、団員達はそれぞれ自由に過ごし始めた。


(……顔合わせにくい)


だが、もう居ると決めたのだ。
心の平穏の為には、離れることも選択肢にある。
でも、ここで逃げ帰ってしまえば心証は悪くなりそうで、それも嫌だった。

ベッドに横たわり、天井をぼーっと見つめる。

フェイタンが嫌がらなかったのは、本当に良かった。
隣に座れだの散々構い倒されたというのに、フェイタンはさらっと受け流してくれた。


(何でかなー)


揶揄の対象になるのは、誰だって嫌なものだ。
気の短いフェイタンが怒らなかったのは、とても珍しい。

多少は好かれていると思って良いのだろうか。うん、良いという事にしよう。


(次は、ちゃんと普通に誘お)


シズクの手を借りずに、ちゃんと自分で言わなくちゃ。
助けて貰ったお礼も、まだきちんとしていないから――誘う口実などいくらでもある。


(大丈夫……まだ大丈夫なはず)


まだフェイタンとは、悪い方向ではない――と思いたい。


(……ねむい)


ぐずぐず悩んでいる時は寝るに限る。
いつしかの意識は、ゆっくりと落ちていった。