TORIKO
窓から見る空は、眩しいほどの赤一色。
仕事が終わったアリスは、同僚と別れると、のんびりと部屋へ向かって歩き始めた。
(次の仕事は、まだ十時間帯は後だから……ディーとダムに会いに行こうかな)
疲労回復のため、眠るか。
それとも、恋人に会いに行くか。
休まないといけない程、疲労は溜まってはいないし――部屋で本を読むというのも魅力的だけれど――と、アリスは真剣に悩み始めた。
そうして、ふと気づく。
(あ、でも、ダメか。あの子たち、次の時間帯は仕事があった筈だから)
もう、彼らは準備をしているかも――万が一にも、しているかも――しれない。
可能性は限りなくゼロだとしても。
だから、会って遊んでいる時間は、あまりない。
必然的に、アリスの選択肢は休息をとる、ということになる。アリスは密かに嘆息した。
(選べないっていうのは、つまらないな……)
そんな事を考えながら、ディーとダムの部屋の前にさしかかった時だった。
アリスを待ち構えていたかのようなタイミングで、部屋のドアが音を立てて開かれる。
そんな不意打ちに驚いたアリスは、思わず歩みを止めていた。
「お姉さん、お疲れさま。寄ってかない?」
「おいでよ、お姉さん。僕らと遊ぼう」
意気揚々と現れたのは、期待にもれず、部屋の主であるディーとダムだ。
ディーとダムはドアにもたれかかると、アリスに向かって微笑んでいる。
「……」
アリスは返す言葉が見つからないまま、ただ、ディーとダムの顔を交互に見つめ返した。
まるで、客引きをされているような気分だ。
救いは、彼らの姿が子供のものである、ということか。これが大人の姿でやられたら、洒落にならない。
(疲れてるんだ、私)
きっと、そうに違いない。
恋人の言葉が、まるでホストのように聞こえただなんて。
反応のないアリスの顔を、ディーとダムは心配そうに覗きこむ。
「どうしたの、お姉さん。疲れてるから休みたい?」
「休みたいなら、僕らのベッドを使えばいいよ。だからお姉さん、おいでおいで」
好きな子を遊びに誘う少年の顔から、大人びた恋人の顔へと変わる。
その変化を見せつけられ、アリスはドキリとした。
(……やばいなあ)
この危険な双子に、アリスはどっぷりとハマっているらしい。
本当は遊びたいだろうに、アリスを気づかってくれたところなんかが、特に。
アリスが二人と出会った頃であれば、彼らは、それでも自分たちの『遊び』を優先していた筈だ。
それが、今は――ああ、彼らの変化はなんと目覚ましいのだろう。
(この子達が優しいのが、こんなに嬉しい)
恋人なんだなあ、とアリスは実感する。
ディーとダムは労るように、アリスの手を優しくとって部屋へと誘う。
アリスは高鳴る鼓動を隠すように、エプロンドレスの裾をきゅっと握りしめた。
「……うん」
幸せで頭がふわふわして、抵抗する気が起きない。
アリスは素直に手を引かれ、双子の部屋へ吸い込まれるように入っていく。
彼らの部屋は、いつだって、独特の空気に包まれている。
床にギラギラしたナイフが転がっている隣には、何故かお風呂グッズが――真っ赤なオクトパス君が無造作に置かれていたりする。なかなか奇怪な光景だ。
アリスの視線に気づいたのだろう。
ダムは少し慌てた様子で口を開いた。
「あ。ちょっと散らかってるけど、大目に見てね」
「最近いそがしくてさ。片付けるヒマがなかったんだよ。ねー、兄弟」
「うんうん。だからお姉さん、見逃してね」
可愛らしく二人に強請られて、アリスは微笑みながら頷いて返した。
(でも……)
この部屋が片付いていたことってあったっけ、とアリスは言いかけて、止めておいた。
危険な地雷は避けるに限る。
アリスがソファに腰かけたのを見届けると、ディーとダムはほっと表情を緩めた。
「じゃあ僕は、何か飲み物とってくるね。お姉さん、いつもどおりに紅茶にする? それとも、ソーダ水とかの方がいい?」
「ありがと。ええっと……あなた達と同じもので、お願い」
「わかったー」
明るい声で返事をすると、ディーは部屋から出て行った。
アリスの隣に、ダムが寄り添うように座る。
「ねえねえ、お姉さん。ベッド、あけようか?」
優しく言葉をかけられたが、アリスは静かに首を振る。
「ううん、平気よ。体調が悪いわけじゃないから」
「疲れてる?」
「ううん」
穏やかに笑みながら、アリスは首を振った。
それでも、ダムの赤い瞳は、じいっとアリスの目を覗きこんでいる。
アリスの隠していることを、探り当てようとでもするかのように。
「でも、さっき……」
さっき――アリスは、己を顧みた。
そうして、すぐに思い当たる。
――ああ、そうか。突然に二人が現れたことに、上手く反応を返せなくて――。
「ああ……ごめん、突然あなた達が現れるものだから、ちょっとびっくりしてただけ」
「なんだ、そうだったの」
ダムの瞳が、やっと険しさを失う。
ちょうどその時、ディーが部屋へと戻ってきた。
「おまたせー」
カチャリとグラスがぶつかり、響き合う音がする。
三つのグラスは好き勝手に左右に揺れ、今にも落ちてしまいそうだ。
一見、危なっかしく見えるが、器用なディーはうまくバランスを取っているらしい。
アリスが見守る中、それらは難なくテーブルの上へと並べられた。
「こっちがお姉さんの、ね。どうぞ」
「ありがとう」
アリスは素直に、指されたグラスを手に取った。
そのまま一口含むと、口の中が洗われるようだった。
「どう? 気分はよくなった?」
ディーも、アリスの隣に座る。
ディーとダムでアリスを挟む、いつもの形だ。
ディーにも説明をしなくては、とアリスは口を開きかけたが、悪戯っぽいダムの声の方が早かった。
「兄弟、兄弟。さっきのお姉さんはね、思いがけず僕らに会えて嬉しくて、ちょっぴり驚いちゃってただけだってー」
「なーんだ、そうだったんだー」
「そっ……」
ディーとダムは、少年らしく笑っている。
カッと、頬が熱くなるのがわかった。
アリスは視線を逸らすと、俯いた。
(そんな直接的な言い方……でも、概ね間違ってないから、いいか……いいのか?)
アリスは悩む。
悩むのはいいが、訂正するには、時期を逸し過ぎていた。
「お姉さんが何とも無くて良かったね、兄弟」
「そうだね、兄弟」
優しい声音に、アリスは視線をあげた。
ディーとダムの顔からは、安堵の色が見てとれる。
(優しい)
ぴったりくっついているせいで、アリスの左右から、穏やかな温もりが伝わってくる。それが嬉しい。
アリスは何の気なしに、自身の手元に目をやった。
透明なソーダ水が、グラスの中で涼やかに弾けている。
(きれーい……)
ディーとダムも、同じソーダ水を片手に無邪気な笑い声をあげている。
ただ、アリスのものと違うところは――ある。
彼らの手にしているソーダ水は、見るからに体に悪い代物ですよーと主張しているのだ。
飲むのを躊躇ってしまうぐらいに、どぎつい色をしている。
(でも、ちょっと美味しそうなんだよね……)
体に悪いとは知っていても、ちょっとだけなら、とアリスは口にしてしまうだろう。ディーとダムのように。
悪いモノは、クセになるのだ。
「あ、そうだ」
ディーは弾みをつけて立ち上がると、床に転がっていた一冊の分厚い本を手にとった。
立ち上がり、かがみ、身を翻し、座る。
まるで猫のような、無駄のない動作だ。
ディーは再び同じ位置へ戻ると、それをテーブルの上に広げてみせた。
「ねえ、お姉さん。今度、新しく何か買おうと思ってるんだけどね」
「……それって」
「カタログだよ。武器の」
ディーはあっけらかんと言う。
何処でそんな物騒なものを入手するんだ、と問いたくなったが、アリスは止めておいた。
裏稼業を生業とする人間からしてみれば、それは当たり前のことかもしれないのだし。
参加しようと、ダムも身を乗り出してきた。
「お姉さんの意見も聞きたいな。お姉さんは、どういうのが好き? 見た目重視? 性能重視?」
期待を込めた瞳で見つめられ、アリスは顔を引きつらせた。
瞳の純な輝きを前に、ごめんなさい選びたくないです、などと言えなくなる。
「わ、私は、武器の事はよくわからないなー……」
ディーとダムの方が専門じゃないか、とアリスが暗に告げると、双子はニコリと微笑んだ。
「あははー。お姉さんってば、面白い冗談だね」
「冗談なわけあるか!」
一笑に付され、アリスは声を張り上げた。
武器なんてアリスからは無縁のものだった。これからもそうに違いない。たぶん。
「えー。だって、僕らがたくさん見せてあげたのにー」
わからないってことは無いでしょう、とダムは薄く笑う。
しれっと言いきられ、アリスは二の句を継げなくなった。
「直感でいいんだよ、お姉さん。そういうのって大事だし。でも、まだ足りないっていうなら、じゃんじゃん見せてあげるよー」
「いや、いいです……」
アリスは謹んで辞退した。
どれだけの量を見たとしても、アリスの目が養われる日は来ない――来ない事を、切に願う。
「そもそも、それはあんた達の使う物なんだから、私の好みで選んでも仕方ないような」
気がするんだけど、とアリスが全てを言う前に、ディーとダムは声を大にして反論してきた。
「え〜〜〜、大事なことだよ!? お姉さんが気に入るかどうかって!」
「そうだよそうだよ! せっかくなら、お姉さんにカッコイイって思って欲しいもん。ねー、兄弟」
「ねー」
ディーとダムは互いに頷き合っている。
揃いの可愛らしい所作を前に、アリスは抵抗する気力を完全に失っていた。
「……そう、わかった」
渋々承知したのだ、と、わざと聞こえるように、アリスは要求を呑んだ。
そんなアリスの頬は、若干、赤い。
何で自分が照れているのだろう。
恥ずかしいことを言っているのは、彼らの方なのに。
自分たちの好みよりも、相手の好みが気になる――。
(それは、ちょっとわかる)
アリスにも経験がある。
好きな人から、好かれたい。そんな単純な願望だ。
好きな人が好むものを選べば、もっと好きになってくれると信じて。
「じゃあ、ええと……」
アリスは初めて、まともにカタログに目を向けた。
「……うーん」
カタログには、ギラギラしたナイフが、愛想良く並んでいる。
たくさん見ていると、だんだん物騒なものだと思わなくなってくるから怖い。感覚が麻痺してくるのだろう。
やがて、アリスはひとつのナイフに目を止めた。
華奢なデザインで、ディーとダムが持つには、少し女性的かもしれない。
どうしようかしばらく迷ったが、アリスは思い切って指で示した。
「これ」
アリスの指差した先を、ディーとダムは真剣な顔つきで覗きこむ。
「これだね? よし、これにしよう兄弟」
「うん、そうしよう。選んでくれて良かったー」
ディーとダムは異論を述べるでもなく、互いに意見を言い合うでもなく、即決してしまった。
何だか心がむず痒い。
満足したらしい双子は、上機嫌でアリスに身体を押しつけてきた。
「お姉さんは、僕らに選んで欲しいことってある?」
「選んで……欲しいこと?」
「うん」
アリスの期待に応えよう、とディーとダムの目は、どこか輝いて見える。
眩しさに気おされながらも、アリスは素直に頷いた。
「そりゃ、あるわよ。服とかリボンとか、どういうのが好みなのか教えてくれたら、私だってもっと」
そこまで口に出して、アリスは言い淀んだ。
何を言っているのだ、と理性が警告を叫ぶ。
しまった、と思ったが、もう遅い。
「もっと?」
容赦なく続きを促されて、アリスは仕方なく口を開いた。急に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「か、可愛いって思ってくれるかなー、なんて……」
完全に失敗したな、とアリスは痛感する。
サラッと言いたかったのに、声が完全に動揺していた。
「……」
ディーとダムは黙ってしまった。
顔が見られないので、彼らがどんな顔をしているのか、アリスには分からない。
呆れられてなかったらいいな、とネガティブな思考に陥りかけていると、急に顎を持ち上げられ、アリスは目を瞠った。
急な展開に逆らえず、そのままダムと唇が重なる。
ふわりと重なった温もりに、アリスはただ驚いていた。
「僕らからしてみれば、お姉さんは、そのままで十分すぎるくらい可愛いんだけど」
くるり、とディーの方を向かされて、再び唇があわせられる。
不意打ちだというのに、アリスの鼓動は勝手に高鳴るし、頬だって火のように熱い。
「あ……あの、ね。いきなり、しないで」
やっと弱々しく主張してみたところで、説得力は皆無だろう。
自分でもわかっているが、そうせずにはいられなかった。
ディーの青い瞳が、アリスを深く見つめている。
「自覚があるのかな? ないのかな?」
「自覚……って」
何の事だ。
ディーとダムはアリスの身体に手を回した。やんわりと、アリスを捕らえるように。
その癖、その深い視線をアリスから剥がしてはくれない。
アリスは思わず、息を呑んだ。
「……ね、ねえ。なんか、眼が怖いわよ?」
ディーとダムにじっとりと見つめられると、アリスはいつも言葉がうまく繋げなくなる。
「それはね」
ダムが耳元で囁く。唇が耳にあたって、とてもくすぐったい。
アリスが身を捩ったのを見て、クスリと小さく笑う声がした。
そうして、アリスの耳に唇を当てたまま、ダムは再び呟く。絶対にわざとだ。
「お姉さんが可愛いことを言うから悪いんだよ」
「悪い!? 悪いってなに」
「ねえ、お姉さん。僕ら今、すっごーく我慢してるんだ」
ディーの手が、ゆっくりとアリスのスカートの中へ侵入し、太股に触れる。ゾクゾクする手つきだ。
「何をだと思う?」
「我慢しなくていい?」
ディーとダムはご褒美をねだるように、アリスを強請る。
ドキドキし過ぎて、頭がどうにかなりそうだ。
「……が、我慢して欲しいな」
乾いた声でどうにか返事をするが、ディーとダムは一向に引く気配はない。
「そう言われたら、もっと我慢できないよ」
「どうしろって言うのよ!」
どの道、アリスに退路はないのか。
それを思い知らされて、アリスの頭はクラクラした。
「ね、遊ぼう。お姉さん」
艶やかに誘うディーとダムの声が、アリスの思考を麻痺させていく。
体も心も蕩けて、何処かへ流れていってしまいそうだ。
「こ、れは、遊びじゃ、ないわ」
それでも、自分よりも年下の彼らに翻弄されるだけでは悔しくて、アリスは懸命に言葉を紡ぐ。
何だか息も絶え絶えに、だが、この際なりふり構っていられない。
アリスの言葉に、ディーとダムは一度、侵食の手を止めた。
嬉しそうに微笑むと、アリスの体を抱きしめる。
「ああ、ごめん。そうだったね。遊びなんかじゃない」
「遊びじゃなくて、本気だよ」
ああ、もう、この子達は全く――どうして、嬉しいだなんて。
アリスは考えることを放棄すると、ディーとダムの求めに応じ始めた。
時間帯が変わる頃。
三人は、ひとつのベッドでまどろんでいた。
ベッドの周囲には、衣類が好き勝手に散らばっている。
「ああ、もう仕事かー……だるいねー」
「うん、だるい……サボっていい? お姉さん」
寝転んだまま、蜂蜜みたいな甘える声がする。
先ほどまでアリスに『悪戯』し放題で、今はやけにスッキリした顔をしている彼らを、アリスは横目でジロリと見た。
やや乱れた髪と白い素肌が、アリスの目に眩しく映る。
「だめ」
アリスは毛布に包まりながら、彼らのお願いをあっさりと切り捨てた。
「えぇ〜〜〜……即答だったね、兄弟」
「さくっと答えられちゃったね〜、兄弟……でも、クールなところも好き」
呑気なことを言い交わしながら、ディーとダムは、まだ起きようとしない。
それを見かねて、アリスはベッドから身を起こした。
「そんなこと言ってないで、ほら。そろそろ支度しないと」
身体はしっかり隠しつつ、散らばった衣類に手を伸ばす。
アリスが急かしても、ディーとダムは気が乗らないようだ。
「は〜い」
「うん〜」
ディーとダムの、やる気のなさ全快な生返事が返ってくる。
駄目だこれは。
アリスが溜息をつきながらブラウスに袖を通していると、突如、後ろに身体を引っ張られた。
ぎゅう、とアリスの体に回される腕は四本だ。されるがままに、アリスは身を任せる。
そんな些細な事より、彼らはいま裸だ、という事実を意識しないようにするのに精いっぱいだった。
「でも、離れがたいね〜……ねえ、お姉さん。僕らがいない間、寂しくても浮気したらダメだよ?」
「しないしない、安心して。私、あんた達ひとすじだから」
そもそも、そんな恐ろしいこと、アリスにできる筈がない。
ダムの言葉を軽くかわしながら、アリスは双子の腕からすり抜けた。
ベッドから降りると、スプリングが軋む音が聞こえた。
まずは、自分の衣類を何とか整える。
……背後からの舐めるような視線がとても気になるところだが、アリスは努めて、気にしていない振りを装った。
さて、次は。
「だから先延ばしにしようとしないで、はい」
ディーの上着を手に取ると、袖が通しやすいように広げて、アリスは突きつけた。
ディーとダムは顔を見合わせてから、小さく舌をだした。
「あ、バレてた?」
「さすが、僕らのお姉さんだね……」
ディーとダムは、ようやくベッドから身を起こす。
大きく伸びをしながら、のろのろと衣服を手に取る。
「もうちょっとさー、皆でだらだら過ごしていたいなー僕」
「僕もー」
「そうね、私もそう思うわ。ほら、ディー」
アリスは彼らに合わせて気のない同意をしてやりながらも、ディーに上着を突きつけることを止めない。
ぶつくさ言いながらも、ディーは何処か嬉しそうに上着の袖を通し始めた。
ダムが、羨ましそうにその光景を眺めている。
「いいなー、兄弟。お姉さん、僕も僕もー」
「はいはい」
甘えた声に応じて、アリスはダムの上着も同じように着せてあげた。
どちらかを贔屓してはいけない。
二人とも平等に、が、三人の約束だ。
「ありがと、お姉さん」
機嫌をよくした双子は、アリスの左右から、頬に唇を押しあててきた。
それがやけにくすぐったくて、ドキドキする。
今さら頬へのキスぐらいで、何をこんなに動揺している、と我ながら思う。
「どういたしまして……早く行かないと、本当に遅れちゃうわ。急いで、二人とも」
アリスがこんな風に、彼らの着替えの手伝いをすることは滅多にない。
仕事の時間がきても動かない彼らを、どうにか動かす為にアリスが考えた結果――なのだが、これがなかなか彼らには評判がいいようだ。
「はいはーい」
「わかったー」
ディーとダムは、今度こそ――やっと、仕事に行く気になったようだ。アリスは胸をなで下ろした。
こうして二人の身の回りの世話をしていると、なんだか手のかかる弟のように思えて仕方ない――と思わず考えてしまい、アリスは慌てて思考を振り払った。
(ときめけ、私)
彼らは恋人だ。
恋人の身支度の世話をしているのに、その感想が『弟みたいだわー』は無いだろう。
「? お姉さん、難しい顔だね……何を考えてるの?」
赤と青、対称的な瞳と、真正面から視線がぶつかり合う。
「なっ、なんでもない。こっちの話よ」
「そう?」
幸い、二人はそれ以上追及してこない。
不思議そうに首を傾げる二人の顔を、アリスはまともに見ることができなかった。
===== あとがき ===
2011年8月発行『TORIKO』より。
ほのぼのパート。
長かったので、いくつかに分割しました。もうちょい続きます。