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窓の外、変わったばかりの星空を眺める。
(アリス……逃げ切れればいいが)
「ちょっと、いきなり黙り込むなよ」
「あ、今お姉さんにチクったんじゃないだろうな!」
両手を挙げ、そのまま物思いに沈んだナイトメアにディーとダムは噛み付く。
「……君たちこそ、それは私のなんだが」
厳密には、もぐもぐとかゴクゴクと言った音を挟みながら二人は、否定する。
「何言ってんの? お姉さんが作ったものは僕らのものに決まってるんだよ」
「そうそう、僕らのお姉さんなんだからね」
降伏したものの、なかなかアリスの場所を言いそうに無いナイトメアに飽きたのか、単にお腹が空いていたのか。
アリスがナイトメアのために作ったお菓子は瞬く間に消えてしまった。
「「ご馳走様でした!」」
双子の声がそろう。
結構りちぎーとナイトメアが内心呟いていると、2人は満足げな様子で脅してきた。
「さぁ、そろそろ死にたくなかったらお姉さんの居場所を吐きな」
「それともほんとに知らない? 寝ぼけるのも大概にしとかないと身の破滅だよ」
不穏な事を言い始めた。
もう面倒くさいとばかりに斧を振り下ろされてもおかしくない雰囲気だ。
「だから正確な場所は分からないと言ってるだろう」
それはもうこの領地から出たからだが、そのことを言うつもりは無いらしい。
埒が明かないとばかりに切りかかった二人はしかし、何に驚いたのかナイトメアから跳びずさる。
「遅くなりました。ナイトメア様」
いつの間に部屋に入ってきたのか、グレイがナイトメアの前に現れた。
「遅いぞ。アリスは無事なんだろうな」
「もちろんです」
剣を構えるグレイに隙は無い。
「侵入者は追い払ってきましたから。……お前らも相手になるぞ? まぁ、そんな時間があればの話だが」
明らかに、事情を知ったふうな口の利き方に、ディーとダムはムッとする。
ナイトメアは考え込む二人に、追い討ちをかけるような話を切り出した。
「グレイ、アリスはどっちの方角に行った?」
「ちょうど帽子屋の領地の方角です」
ナイトメアは、その言葉にやはりなと顔を曇らせた。
「あれほど関わるなと……うぅ」
曇らせるどころか、悪くなった。いまにも吐きそうだ。
あ〜〜うう〜〜と、悲嘆にくれているのか苦しんでいるのか分からないうめき声を発しながら、膝を付くナイトメア。
「ナイトメア様!」
駆け寄るグレイの服を鷲掴みにしながら、苦しい息の中ナイトメアは、伝えねばと必死だ。
手紙の事。
その内容に込められた意味。そしてそれに関わる場所――。
「早くしないと、取り返しの付かない事に……がく」
「ナイトメア様〜〜!」
そんな二人を4つの冷めた目が見下ろす。
「なにこの寸劇」
「でもお姉さんは屋敷のほうに行ったみたいだね」
もうここには用が無いとばかりに、去っていく二人の背中。
「……くくくっ、失態だな。グレイ」
ナイトメアはディーとダムが完全に見えなくなると、ぱちりと目を開けた。
「……ナイトメア様、はかりましたね」
無表情のグレイに気をよくしたのか、ここぞとばかりに続ける。
「罰として、私はこのまま眠る事にするぞ。起こさないようにな」
そう告げられたグレイは、カチリとタバコに火をつける。
ゆっくりと煙を吐き出したところで切り出す。
「俺がそんな失敗するとお思いですか? アリスは森に向かいましたよ」
「……え?」
「さて、たっぷり休憩しましたね?」
「う、気分が……」
とっさに仮病を使おうとするナイトメアを、グレイは無言で見つめる。
「さ、さーて、やるぞー。仕事やるぞー……」
やっと机に戻ったナイトメアを一瞥すると、グレイは窓から星空を眺める。
(アリス……逃げ切れよ)
さっき同じ窓から同じようにナイトメアが思ったところだった。
× × × × ×
クローバーの塔を後にしたアリスは、ナイトメアから聞き出した場所に行くつもりだった。
しかし、その事よりもまず逃げ切る事を考えて、森に隠れる事を考えた。
(夜だし、森に入ったら見つかりにくいはず!)
この時間帯が終われば勝ち……始まったときは無理な気がしていたが、終わりが見えてきた。
星明りに照らされた道を、小走りで進む。
ドアや矢印の張り付いた不思議な森は、隠れる場所に最適に思える。
ドアの裏と木の隙間に座っていてもいいし、ちょっと大変だけど、木に登ってもいいだろう。
(はじめからこっちに来ればよかったわ)
さぁより見つかりにくいのは…と森を進んでいると、どこからか言い争うような声が聞こえてきた。
(も、もしかして、もうディーとダムがきた? それでもってピアスを見つけていじめてる!?)
まさかそんなはず無いと思いつつも、一瞬ためらった後、確かめる事にした。
やっぱり気になる。ディーとダムじゃありませんようにと祈りながら、その声が聞こえるほうに進む。
見つからないように、身を隠しながら、声の内容が聞こえるくらい近づいた。
「死ね! ストーカー!」
「違う、我々は……」
「こそこそしやがって、じゃあ誰の差し金だ!?」
「そ、それは……」
「言わないつもりか? じゃあストーカーだろ!」
……大変そうだ。
一瞬洩れ聞こえた内容だけでも、大変そうだ。
でも声をきいたかぎりディーとダムではない。アリスは、良かったと息をつく。
(でもなんだか聞いたことある声?)
ちょっと見てみようと、そろっと隠れていた木の間から顔を出す。
ビュン! ザクッ!
その途端、恐ろしい勢いで跳んできたフォークが木の幹に突き刺さる。
「きゃあ!」
驚いて転んでしまったアリスに、駆け寄ったのは……
「アリス!?」
夜でもピンクが眩しいボリスだった。手にはナイフが握られている。
「ボ、ボリス……どうして」
「怪我しなかったか!? ちっ…あいつら避けやがって!」
憎憎しげに、少し離れているところにいる男2人を睨みつけている。
「ボリス……あの二人も食べるつもりなの?」
アリスは木に刺さったままのフォークとボリスが手にしているナイフを見てとっさに聞いてしまった。
「はぁ? ……あぁ違う違う。あいつらが俺の食事中に……おいっどこ行った!」
少し目を離した途端いなくなっていた。
「あいつら〜〜」
握り締めたナイフが折れそうだ。
「なんなの? あの人たち」
アリスが聞くと、ここ最近ボリスの周りをうろうろし始めたそうだ。
しかも何をするわけでもなく、じっと見ているだけで。
「こ、怖いわね」
「……うざいだろ」
ピアスよりうぜぇと呟きながら、乱暴に木を蹴りつけている、かなり苛ついた様子のボリス。
どこにいったのか……やはり暗い森は目を凝らしても見通しは悪い。
「あら?」
白い紙のようなものが落ちている。
「ねぇ、ボリス。あそこに何か落ちてるわよ?」
「ん?……ほんとだ。あいつらが落としたのか?」
手がかりかと、駆け寄る。
「手紙……」
アリスが持っている手紙と同じものだった。
「ただの手紙だな……どうした?アリス」
固まったアリスにボリスは不思議に思い聞いてくる。
「これ……」
アリスは手紙を取り出しボリスに見せた。
ボリスはその手紙を手に取り、落ちていた手紙と見比べる。
「封が同じか……同一人物のものか、組織が同じ可能性が強いな。これ、どうしたんだ?」
アリスはこれまでの経緯を話した。
「へぇ……夢魔さんの奴の話を信用するわけじゃないけど、他に手がかりはないか。確かめようぜ?」
アリスはてっきりその場所に行くのかと思ったが、ボリスは手紙を開けようとした。
「あ、開けるの!?」
アリスの声に、ボリスも目を丸くする。
「え? ダメ?」
「ダメっていうか……抵抗があるわ」
封をされた手紙を開ける……たとえストーカーの落し物と思っても、人としてどうかと思う。もしかしたら送り主がいる可能性もあるのだから。
「……じゃあ、その場所に行ってみる? そこに誰もいなかったら開けてもいいよな」
そう譲歩してくれたボリスに頷く。
「でも、出来れば時間帯が代わってから……」
ちょっと言い辛いけど譲れない部分を切り出したアリスだったが、目をギラギラさせ今にも走り出しそうなボリスに言葉を呑むしかなかった、
(どうか、ディーとダムに会いませんように)
アリスはそう祈るしかなかった。
× × × × ×
「この辺りか?」
アリスとボリスは、帽子屋屋敷に向かう道に差し掛かった。
ナイトメアの言うとおり寂しい、人通りのなさそうな場所だ。
「多分……でも、道以外に何にも無いわね……」
「やっぱり中身見るしかないか。いいだろ?」
周囲を見渡してみたが、誰もいないし建物も無い。これ以上進むと街に出るし……。
「そうね。開けてみるしかないわね」
アリスは頷く。
「じゃあ、まずはさっき拾ったやつから…」
ビリッ…
夜○ターゲット1時間帯滞在 見失う
昼×B眠っていた。
夕×Bほぼ眠っているが、たまにネズミを追いかける
夜○ターゲット1時間帯滞在。15回
昼×
夜○ターゲット確認。20回
夕……
「なんなの? 暗号かしら」
「このBってのは俺のことか? ……行動を見た感じ。この回数と、○とか×がわかんねぇけど」
よく分からない……分からないがこれはストーカーだろう。
二人して嫌なものを見たと思っていると、道の向こうから灯りが近づいてくる。
じゃり……じゃり…
ゆっくりとした歩調。灯りは何かを探すかのように、右へ左へ揺れている。
「ボリス……」
「あぁ、もしかしたらあいつらの仲間かもな。……そこの茂みに隠れようぜ」
ボリスの提案に頷き、隠れる。
暫くすると、灯りの主が現れた。
(……ペーターだわ)
何故こんなところにペーターが?
彼は何かを探しているようだ。周りを灯りで照らしながら進んでいる。
「全く、今日もいないとは……本当、あいつらはつかえない……」
アリスはボリスと顔を見合わせる。
今の言葉からすると誰かと落ち合うはずだったようだ。
この手紙を届ける相手はペーターだろうか。
ボリスは茂みから手だけ伸ばして手紙をみせた。
「……ん? その手紙は! ちょっとそこで何をしているのですか? ちゃんと出てきて報告しなさい」
黒だ。
完全なる黒。
ガサガサとアリスとボリスはペーターの前に姿を現す。
「おら、出てきてやったぜ? わざわざ手紙に書かなくても俺が答えてやるよ。ストーカーさん」
「ペーター……あなた私だけじゃなくボリスまで……」
なぜアリスとボリスが現れたのか驚き、2人の勘違いに気付き、これまでの経緯を瞬時にペーターは判断したようだ。大きく一つ頷いた。
「そうだったんですね。分かりました」
パンッ…パンッ
「おわっ」
ペーターはボリスに向けていきなり発砲した。
「何するんだよ!」
「ちょっとペーター!」
訳が分からないアリスたちに、ペーターは悲嘆にくれた表情で言い募る。
「アリス待っててください。今助けてあげます!」
ハートの城の宰相はやはり常人離れした思考の持ち主のようだ。
飛躍しすぎてついていけない。
「やはりあの報告書は捏造だったんですね。貴方がここに来たのがその証拠です。誰に指示しても納得行かなかったわけが分かりました。結局敵の手先になるような愚か者は消して正解でした。ちなみに○は滞在したかどうか回数はアリスが笑った数です」
ちゃんと説明してくれた。
アリスはやっと納得がいく。
「だからこの手紙は呪われてるのね……」
仕事が報われず、理不尽な理由で殺された人たち。
何よりペーターの執念が渦巻いていたのだ。
「ペーター!」
まずは、ボリスに攻撃するのだけは止めようとしたアリスを、当のボリスが止める。
「アリス、ここはあいつに俺を攻撃させたままにさせとけ」
アリスにはボリスの言う意味が分からない。
「なんで? ペーター勘違いしてるじゃない」
「いいんだ、このまま俺は森に逃げるからその隙に、あんたは隠れる場所をさがしたらいい」
このまま騒いでいたら、ディーとダムに見つかるから……。
「ボリス……」
「それに、ここんところの精神的苦痛に対する落し前もつけないとな」
暗く笑うボリスにそっちが本音だろと思いつつも、アリスはお礼を行った。
「ありがとう」
ボリスはいいさと肩を竦め走っていった。
「待ちなさい!」
ペーターはボリスを追いかけていく。
よかったと思いながらも猫を追いかけるウサギ……何だかおかしい。
アリスが少しほっとしたときその声は聞こえた。
「あーやっとあいつらいなくなった。長かったね兄弟」
「いつまで続くのか心配だったね。でもいい話聞いちゃった」
恐る恐る振り返ると、やっぱりそこにはディーとダムが……。
「「おーわり! お姉さん捕まえた!」」
言葉どおり左右から抱きつかれた。
そんな……と固まるアリスの顔をディーとダムは覗き込むようにして、笑いかける。
「ふふふっ、やっぱりお姉さんと離れるのはやだね」
「うんうん。でも我慢したぶん会えたら嬉しさも倍になるけどね」
アリスは負けたショックもあったが、その二人の言葉に共感している自分に気付いた。
ディーとダムが傍にいると、こんなにも安心する。
「……で? 望みは何? 早く言わないと無効にするわよ」
そんな事を言ってしまったが、アリスは何でも聞いてあげる気になっていた。
「んーお姉さんの手作りのお菓子が食べたいな」
「うん、それいいね。食べたいなぁ」
「え?」
そんなものでいいのかと、アリスは首を傾げる。
そんなアリスを見ながら二人は続ける。
「夢魔さんのところにあったやつみたいな。でももう食べちゃった」
「ぜーんぶ食べちゃったから、もう満足だね」
「いいの? それだけで……」
戸惑いながら尋ねると、ディーとダムはいっそう強くアリスを抱きしめながら言う。
「いいよ、お姉さん疲れたでしょ?」
「そうだよ、早く帰って休もう」
優しい言葉にアリスの胸が熱くなる。
「……ええ、帰りましょう」
3人は仲良く手をつないで屋敷までの道を歩いてゆく。それぞれの思いを胸に。
「……何があったかゆっくり聞かせてね、お姉さん?」
少し離れた草むらには、たくさんの首なし体が転がっている。
傍にはビリビリに破かれた紙。
夜空の下で、それらは何か言いたげに口を開いていた。
【Find Out/岬・山藤/了】
===== あとがき ===
2009年8月発行『Find Out』でした。
読んでくださってありがとうございました!