雑踏の中、はイルミと歩いていた。
こうして肩を並べて歩いているだけで、ふわりと心が浮き立つのを感じる。
「どこか行きたい所、ある?」
「行きたい所かー……そうね……」
イルミに話しかけられて、は考えた。
こうして二人で過ごせるのも久しぶりの事だ。
最近、仕事に忙殺されていた。
イルミの職業柄、あまり忙しくない方が安心ではあるのだが。に文句は言えない。
『仕事中』にイルミが怪我をするかも、ひょっとしたらそれ以上の、と思うと、いつも寒気がする。
気が気でなくて、そわそわしてしまう。心が氷のように冷え切って、目眩すら覚える。
イルミは「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」と軽く言うのだが――一般人の私からしてみたら、どうしたら大丈夫だなんて思えるのか教えて欲しいところだ。
(今回も、無事でよかった)
変わらない彼を見る度に、毎回そう思う。
また、この顔を見られるだけでも幸運。
だから、イルミに直接会って話ができるだけでも、今すごく嬉しい。
ふと、足を止める。
の足が止まっていることに気付いたイルミも、すぐに立ち止まった。
「どうしたの?」
「え? ええと……」
視線が泳ぐ。
今、何か視界に入ってきて――街のあちこちに、ポスターが貼ってあるのが目に飛び込んできた。
近く、お祭りが開かれるらしい。
は、改めて辺りを見渡した。
確かに、街は祭りの準備が進められているようだ。
見ているだけで心が浮き立つような、色とりどりの飾りが、目に鮮やかだ。
「ねえ、イルミ。お祭りに行かない?」
「お祭り? 何するの?」
イルミは、不思議そうに首を傾げている。
何をするか、と言われても。
改めて考えてみると、説明が難しいことに気づく。
「す、するというか……あの、ダメだった?」
「ううん。いいよ」
イルミは、拍子抜けする程あっさりと承諾したのだった。
錦の心
夕暮れ時。
すっかりお祭りムードの街を、二人はゆっくり歩いていた。
真っ赤な空は、端からじわじわと黒く染まっていく。そろそろ日が落ちて、暗くなってしまうだろう。
今は穏やかな提灯の灯りも、夜になったらきっと綺麗だ。
二人して、浴衣を着ている。
イルミは黒。は赤。色は違えど、お揃いの柄だ。
お祭りに行くと決めてから、急きょ買い揃えた。
イルミは浴衣なんて初めて着ると言っていたが、意外と似合っていた。そして、しっくり馴染んでもいた。
「イルミとお祭りに来れるなんて、思ってなかった」
「俺も……そうだね。思ってなかった」
の言葉に、イルミも頷く。
まさか自分がこのような場所に居るのは、いくらイルミでも想像ができなかっただろう。
とて、お祭りでイルミが隣にいる光景なんて、想定したこともなかった。恥ずかしいような、照れくさいような。
「お祭り、初めてなの?」
「うん、初めてだよ」
イルミはあっさりと答えた。
それもそうか、とは思う。イルミの家庭環境は特殊だ。
日常や――お祭りといった、そういった穏やかなイメージとは、遥かかけ離れているところに在る。
お祭りなんて小さい頃から毎年行ってたよ、なんて言われた方が驚く。
穏やか過ぎて、きっとイルミにとっては退屈だろう。
それなのに、こうして二ナの願いを叶えて、寄り添ってくれる。その事が、は何よりも嬉しかった。
「イルミ、似合うね」
こうも普段の装いとガラリと違うと、新鮮な魅力がある。
が微笑むと、イルミは不思議そうに首を捻った。
「そう? でも、二ナの方が似合う。可愛い」
「そ……そう? ありがとう。下駄、慣れた?」
「ちょっと歩きにくいかな。でも、慣れてきた」
流石というか、順応は早い。
の足取りの方が怪しいくらいだ。
からころ、と小気味の良い足音がする。
昼間はじっとりと暑かったが、風も涼しくなってきた。
「こうして歩くと、何だか新鮮だね」
「そうだね。夜の散歩は、あんまりしたことないから」
「……」
そういう事じゃない。
やっぱり、ちょっと感覚はずれているようだ。
(うーん……どうしよう)
違うんだなあ、と、こんなところで実感してしまう。
ほんの小さな感覚のずれだ。
些細なことではあるけれど、イルミには、この感覚を解って貰いたい気もする。
は思い切って、真正面からぶつかってみることにした。
「周りの雰囲気と、格好が違うからかな?」
「ん?」
「イルミが素敵」
改めて口にするのは恥ずかしいが、言わなくては通じない。
屈みこんで、観察するように顔を覗きこまれる。
イルミの黒髪がはらりと流れるのが見えて、綺麗だなと思った。
じっとを見る深い瞳は、彼の内心を表してはくれない。
何を思っているのだろう、と不安になることもある。
「……どう、したの?」
恥ずかしいのに、目を逸らせない。妙な緊張感を覚えて、は頬を染めた。
そんな風に――探るように見つめられると、ドキドキする。
イルミは落ちた髪を掻きあげた。自然な動作で、それだけでサマになっているのがずるい。
「……素敵、か。こういう格好が好きなの? それなら、いつもこういうの着ようか?」
はホッとして、それから首を振った。
「ううん。いつもの格好でも好きだけど、別の魅力があるって話よ」
「別の魅力……」
「そうそう」
は頷く。
イルミは時々、こういう所がある。
が何かを好きだと言えば、それに合わせようとしてくれる。
庶民の感覚に合わせてくれようとするのは嬉しいけれど、そのままで十分に好きなのだ。イルミが変わる必要はない。
イルミが考え始めたのを見て、はイルミの言葉を待つ事にした。
「……二ナの、その格好も好きだな。いつも着てるのとは違う。でも、どっちでも好きだ。そういうこと?」
「そ、そういう事……ですね」
そんな、冷静に言われると。
は顔を赤くしながら、視線を彷徨わせた。
なるほど、とイルミは何やら納得している。
わかってくれたのなら良いか、とは顔を手で仰いだ。少しでも早く、火照った頬を鎮めたかった。
いくつかの屋台を眺めていると、懐かしいものを見つけた。
「金魚すくいがあるー。懐かしいな」
「……金魚?」
懐かしい、と思った時には、無意識に傍に寄っていた。イルミもの後に続く。
真っ赤な金魚が涼しげに泳いでいるのを見て、は目を細めた。
「綺麗ね。お祭りって感じ」
「……これを、すくうの?」
店先の『金魚すくい』という文字を見ながら、イルミがたずねてくる。
「そうそう。あのポイって道具を買って、すくえたらすくえた分の金魚が貰えるの」
が説明すると、多少、イルミの興味が湧いたようだった。
「ふーん……、ちょっとやってみせてよ」
「い、いいけど……下手だから笑わないでね」
「笑ったりしないよ」
緊張する。
は意を決して袖をまくると、店先にしゃがみ込んだ。料金を支払い、道具を受け取る。
じっと金魚の様子を観察し、まず一匹を掬い上げることに成功した。
「……よし」
成果ゼロ、という失態は避けられた。イルミをがっかりさせたくない。
いや、別に彼が本当にがっかりするとは思わないけれど、やっぱり多少の見栄というものがある。
(こんな事をするの、子供の時以来だな……)
そう思うと、口元が緩む。
子供の頃はもっと、この鮮やかな金魚たちが宝石のように見えていた。
「……んー、どれかこないかなー……あ、破れた」
いざ、と水につけた途端、ポイが破れてしまった。
「お穣ちゃん、1匹か〜惜しかったな!」
「はは……」
店主が声をかけてくれたが、曖昧に笑って返す。
傍で観察していたイルミが一言、ぽつりと呟いた。
「このすくう道具が破れたらおしまい、ってこと?」
「そういうこと。でも、一匹とれたー」
「そう。……よかったね」
渡された金魚を、ほら、とイルミにも見せてみる。
ビニール越しに、そうっとつついてみるイルミが可愛らしい。
「彼氏、彼女のリベンジしてあげなよー」
「? 俺?」
自分に言われたのか、とイルミが視線で問い返すと、店主はにかっと笑った。人懐っこい笑顔だ。
「そうそう。かっこいいとこ見せてやりな!」
「……そういうものか。わかった、やる」
「え」
やるんだ。
は驚いて固まってしまった。
イルミがそのままで挑もうとするのを見て、我に返ったは慌てて止めた。
「イルミ、袖。袖、ちょっとまくらないと。濡れるよ」
「そっか、ありがと」
淡々とした調子で答えながら、イルミの袖をまくってあげる。
「……柔いね、思ったより」
「うん。濡れるとすっごく弱くなるよー。角度とか変えてみたら?」
「うん。もう一回やる」
イルミは再び挑戦し始めた。
彼が意外と負けん気が強いことを、は嫌というほど痛感することになる。
それから、しばらくして。
は茫然と立ち尽くしていた。
「イルミ……」
が小声で名前を呼ぶが、イルミは手を休めない。また一匹、金魚が掬われていく。
「50、と……こんなもんかな?」
「……十分です」
どう、と言いたげにを振り返る。
は、引きつった笑みを返すことしかできなかった。
いつのまにか、周りには人だかりが出来ていた。
凄いな、と周囲からも歓声があがっている。
食い入るように見られているのに、イルミは気にも留めない。鋼の精神だ。
「すげえなー、兄ちゃん! おかげで盛り上がったよ!」
「? そう」
「……」
最初の一回でコツを掴んだのだろう。
イルミは、次から次へと金魚を掬いあげていった。
最初の方は、もすごいなあと見惚れていたのだ。最初の方は。
涼しい顔で流れるような動きを見せるものだから、何事かと立ち止まる人も増えて――この有り様だ。ちょっとしたショーのようだった。
店主はお祭りらしくて良い、とニコニコと嬉しそうだ。良い人だなあ、とは感心する。
「よかったな、彼女! ほら、水槽おまけに持っていきな!」
「あ、ありがとうございます……」
水槽と大量の金魚を手にして、二人は店を後にした。
かなり重たい筈なのに、イルミが持ってくれている。水槽はが。
「……」
「たくさんだー。早く移してあげないと……イルミ?」
視線を感じて、はイルミを仰ぎ見た。
イルミが、何か言いたそうにこちらを見ている。
「かっこいいって言われると思ったんだけどな」
「……。か、かっこいいよ、イルミ。すてきー」
「いまいち心が籠もってない気がするけど……」
「気のせい、気のせい」
やり過ぎだ。
とは、流石にでも言えない。
もう少し加減というものを覚えて欲しい。それをイルミに求めるのは酷か。
こんな量の金魚を抱えたままでは、動きにくい。
というか、他の人にも邪魔である。誰かとぶつかって破損などしたら、惨劇につながるかもしれない。
お祭りの雰囲気をぶち壊す羽目になっては、元も子もない。
「どうしよっかなー。あ、家にビニールプールがあるか。ひとまず、あれにうつして……」
せっかくとってくれた金魚だ。
できるだけ早く、落ち着いた環境を用意してあげたい。
「一度、家に戻ってもいい?」
「いいよ」
後ろ髪を引かれる想いも、無いとは言えないけれど――もうちょっとだけ、この場所に居たかった。
でも、楽しかったのだ。楽しいままで終わらせなくては。
そうしてイルミとは、お祭り会場を後にした。
古いビニールプールを引っ張り出して、空気を入れる。
水を張ってみたが、幸い破れてはいないようだった。
水温を馴染ませた後、ぎゅうぎゅうに詰まった金魚たちを解き放つ。
「……わー、綺麗」
「そう」
「真っ赤ねー。黒いのもいる」
は静かに、水の世界を眺めていた。
最初は混乱していた金魚たちも、もう群れをなして泳ぎ始めている。
やはりというか、数が多いので少し窮屈そうに見えた。
イルミはというと、別の事に気を取られている様子だった。
と並んでしゃがみ込んでいるが、目は別の物を見ている。
見れば、ぷに、と指でビニールプールの縁を触っていた。
「この容器さ、強度がいまいちじゃない?」
「そりゃあ、ビニールだからね……池でもあればいいんだろうけど」
は苦笑を浮かべた。
生憎、庶民バリバリの自分の家に、池などというものはない。
は、視線を金魚に戻した。
イルミは、相変わらずぷにぷにしながら、と金魚とを見つめている。
唐突に、イルミは立ち上がった。
「ちょっと電話」
「はーい」
イルミの背を見送ってから、の表情は崩れた。
しまりのない顔をしているんだろうなあ、と自分でもわかる。
「……ふふふー、嬉しい」
やり過ぎだと中断しても良かったのに、そうしなかったのは――が嬉しかったから、だ。
自分も大概だなあ、と反省してみる。
赤と黒の世界は、見ていて心が浮き立つ。一緒にお祭りに行ったなんて夢のようだ。
「イルミ……」
「なに?」
「
うわっ!? も、もう電話おわったの!?」
「うん。すぐ来るって」
二ナの動揺を軽く受け流しながら、イルミは二ナの後ろに立った。
「う、後ろに立たなくても……どうしたの?」
「後ろ姿もいいな、って思って。眺めていたい」
「そ、そう?」
ストレートな物言いに、二ナの鼓動は高鳴った。
髪が乱れてなかっただろうか。そんな、じっくり眺められて大丈夫な姿だろうか。
気持ちが落ち着かない――ふと、は気がついた。イルミは、今なんと。
「……ん? 何が来るって?」
「業者だよ」
「……何をするつもり?」
イルミは飄々としているが、だからこそ不安が増す。
が恐る恐る尋ねると、イルミは何の気なしに隣を指差した。
「隣の土地、空き家でしょ?」
「うん」
「俺が買い取って、池を作ることにしたから」
「そう、池を……
はあ!?」
は思わず立ち上がった。信じられない、とイルミを見る。
「……う、うわ……え、ちょっと、マジです?」
「マジだけど?」
「
な、なんで!? というか、イルミ、それお金……」
「気にしないでいいよ。俺からのプレゼント」
「……気にする」
いくらでも、それがプレゼントの域を遥かに超えている金額なことぐらい、想像は易い。
「いいのに。律儀だなあ。じゃあ、代わりに貰う」
「……代わりにあげられるもの、ある?」
「あるよ」
は難しい顔をしている。
イルミはそんなを見て、僅かに微笑んでいる。
そんな顔で見られると、止めて下さいお願いします、なんて言えなくなってしまう。
悩んでいる間に、業者がやってきた。
いきなり呼びつけたにも関わらず、なかなかの早さだ。どんな手段を使ったのだろうか。
草が生えまくっていた隣地が、瞬く間に整えられていく。
イルミはいくつか指示を出すと、愕然と佇むの肩を抱いた。
すっかり作業が終わるのを確認してから、イルミはの顔を覗きこんだ。
「、よく分からないけど、これでいい?」
「い、いいと思う」
「そう。じゃ、代金は振り込むから」
「はい! ありがとうございました!」
手際よく作業を終えた業者達は、意気揚々と引き揚げていった。
「……わー」
完全に、置いてけぼりだった。感動する暇もない。
イルミは隣を見やると、満足そうに頷く。
「もう少し待てば、水が澄んでくるってさ」
水をいれたばかりの池は、まだ泥の色をしている。
全体を見回し――見事な和風庭園だなあ、とぼんやりした頭で考えた。
凡庸な自分の頭では、展開についていけない。理解したくないのかもしれない。
「……イルミ、これって……金魚の為に?」
「? うん。、どうしようか悩んでただろ?」
「それはそうだけど……ここまで」
しなくてもいいのに、と言おうとした言葉は、最後まで続かなかった。
イルミの手が、の頬に触れている。
触れられている――と自覚した途端、頭が真っ白になってしまった。
「嫌だった?」
「ううん」
「俺、加減がわからないんだ。ごめんね」
そろっと、慈しむように撫でられる。
イルミの表情はわかりにくいが――不安そうに見える。
これで間違ってないか、大丈夫なのか、に問いかけているような。
慌てては頭を振った。
「違うの。嬉しいよ。でも、金額の大きなものは……申し訳ないし、貢がせてるみたいで……」
「俺は貢ぎたいんだから、いいんじゃない?」
人聞きの悪い。
の笑顔は引きつった。
はあ、と大きくため息をつくと、肩の力まで抜けた。
「……その行動力はびっくりするわ」
「そうかな。が金魚を大事そうに見てたから」
「うん……大事だよ。イルミがとってくれたんだから」
その事実だけでも、にとっては何よりも価値のある金魚だ。
イルミの言った通り、しばらく待っていると池の水が澄んできた。
ビニールプールの金魚をすくい、池に放す。丁寧に、丁寧に。
全ての金魚を移動させ終わると、はふっと息を吐いた。
「弱ってるのが多いっていうから、死なせないように頑張る」
「気にしなくてもいいよ。少なくなったら、また俺がとってあげる」
「ううん、大事にする」
ふと、イルミがを引き寄せた。
気づいた時には、彼の腕の中におさまっている。
抱きしめられると、何もかもがどうでもよくなってくるから不思議だ。イルミ以外の、何もかもが。
「……喜んでくれた?」
「うん、ありがとう……」
「そう」
イルミの口調は素っ気ないが、どことなく嬉しそうだ。
ちゃんと、この人に届いているのだろうか。届いてくれたらいいな、と願わずにいられない。
「イルミは?」
「ん? 何だい?」
「今日、楽しかった?」
「うん、とても」
「……よかった」
刺激的な毎日を送っている彼にしてみれば、退屈ではないかと心配だったから。
イルミは腕の中のを見つめている。
「は不思議だね」
「……何が?」
こちらから言わせて貰えば、イルミの方がよっぽど摩訶不思議な存在だ。
「と居る時は、色がある」
「色?」
「うん。見たことない色とか、そういうのが……」
が聞けば、ちゃんと考えて答えようとしてくれる。
誤魔化さないし、隠さない。表情がポーカーフェイスなのは標準装備だから、それは置いといて。
「見たことない色……金魚とか?」
「金魚……も、そうだね。赤色とか、血しか見てなった気がするよ。こういう色もあるんだな」
イルミの目が、泳いでいる金魚に注がれる。
イルミの見ている景色は、どんな風に見えているのだろうか。
ふと心に浮かんだ疑問だが、ここは聞いてみることにした。
「……綺麗に思う?」
「綺麗……」
口に出してみて、その意味を反芻している。
ややあって、イルミは首を捻った。
「それはよくわからないけど、嫌いじゃない」
そうして、再び視線はの方だ。
大事なものを扱うように、そっと抱きしめてくれる。
「が全部、教えてくれる」
「……」
それは違う。
はそう思う。
どうもイルミの感覚は理解しがたいけれど――イルミがそう思っているのなら、そうなのだろう。
彼はに寄り添おうとしてくれるが、自分としては、イルミに寄り添いたいのだけれど。
お互い様だな、とは微笑んだ。お互い、同じ場所を目指している。
「それって、見てなかっただけで、ちゃんと在ったんだと思うよ」
「そうかもしれない」
イルミは、否定しなかった。
ただ感知していなかっただけの話、だろう。
仕事に必要な情報や知識、それに関するものと――それ以外の、『その他』。区別をハッキリしていただけだ。
周囲の『その他』に分類される事など、本当にどうでも良かったから。
気持ちが落ち着いてきたのか、イルミはから身を離した。だが、その肩は抱いたままだ。
二人して、池を見る。月明かりが映し出され、とても美しい風景だ。
「目が増えたみたいだな」
という目が。
同じものを見て、同じように感じる心が、自分にも在ればいいのにとイルミは思う。
イルミは、金魚に目をやった。
放たれた金魚は、気持ち良さそうに、すいすいと泳いでいる。は綺麗だと言っていたが、さて、どこら辺だろう?
「これ、大きくなる?」
「うーん……どうだろう」
「池、もうひとつくらい作ろうか」
「い、いいっ!
大丈夫! 十分です!!」
「そう?」
「そう!」
「そっか」
金魚の群れは、赤と黒が混じりあっている。
その姿に自分とを重ねながら、イルミは囁いた。
このまま溶けて混ざり合っちゃえばいいのに、と。
そうできれば、きっと。
月が見守る中で、イルミとは寄り添い立っている。穏やかな時間が、ただ流れていた。
【了】
=== あとがき ===
イルミ夢でした。ほのぼの。
夏祭りに一緒に行けたらいいなあ、と。和装がすごく似合いそうです。
読んで下さってありがとうございました。
2015.8.31 山藤