恋はプラトニックに
実のところ、は自分があまり好きではなかった。けして嫌いなわけではないが。
何をどう間違えたのか、蜘蛛の中にいる……違和感はないと思いたいが、他者から見てどうなのだろう。
周りと比べれば、どうしても見劣りしがちな、平凡すぎる自分。
特に優れている所があるわけではない。顔だって十人並みだ。
まっすぐに伸びた黒髪は硬く、これまた可愛げがない。
はため息をついた。
比べてもどうしようもない事だから、諦めるより仕方ないのだが。
何でこう、自分の周りの人間は、綺麗だったり可愛かったりかっこ良かったりするのだろう。
絶対に平均よりも数が多いと思う。
せめて、強ければ。
念能力は、自己鍛錬でどこまででも伸びる。
……それもまた、資質に拠るところは大きいが。
世界で一番の使い手になれずとも、そこそこの使い手レベルには努力次第でなれる。
実際、はその「そこそこの使い手」レベルである。
ヒソカやクロロなんかには、到底適わない。
もし今後対峙することがあれば、即刻逃亡するつもりだ。
……そうなる可能性はゼロだけども。
クロロとは団長・団員の関係である以上、どうにもなりはしない。
そしてヒソカにとっては、自分は道端の雑草程度にしか思われていないことも知っている。
もしも、世界で一番になったらどうだろう。
ヒソカみたいなのに四六時中付き纏われるのだろうか。
起き抜けにヒソカのアップ顔を見たら、軽くショック死できそうだ。
うっかり想像してしまい、背筋がぞっとした。
「……うん、嫌だなそれは」
思わず声に出して呟いていた。
「何が?」
「え?」
「何が嫌なんだって?」
一人きりなのに、声がしたことにドキリとした。
顔をあげると、いつの間にか目の前に座っているイルミが、じっとを見ていた。
そうだ、イルミが来ていたんだった。
あまりにも気配を感じさせないので、うっかり居るのを忘れていた。
「え、口に出してた? 私」
「うん」
「あらー……いや、もしヒソカに四六時中はりつかれたら鬱陶しいなって」
「……被害にあってるの?」
イルミの声がやや冷たさを帯びる。
それに気づかないまま、は首を横に振った。
「ううん、ただの想像」
「なんだ」
紛らわしい、と言いながら、イルミは本に視線を戻した。
さらり、とイルミの黒髪が流れる。
彼の髪は憎らしい程にサラサラしている。
一度聞いた事があった。どんな手入れをしているのか、と。
意外にも、すんなりとイルミは教えてくれた。
それから頑張って同じ手入れの仕方をしているのだが、の髪は依然として硬いままだ。
だから尚更小憎らしい。
「髪、触っても?」
「……また? いいけど」
は椅子を動かして、イルミの隣に移動した。
手を伸ばし、引っ張らないように注意しながらイルミの髪に触れる。ほんのりと冷たくて気持ちいい。
思いついて三つ編にしようとしたが、するすると解け落ちてしまう。ちょっと悔しかった。
こうなったら、何としても結んでやる。
は半ば意固地になって、イルミの髪を結う事に没頭し始めた。
イルミは好きなようにさせていたが、やはり気になるらしく本を閉じた。
楽しそうなを横目で見て、心底呆れたように呟く。
「何でそんなに触りたがるの」
「好きなんだもの、イルミの髪。滑々してる……いいな」
がそう溜息混じりに即答すると、イルミは首だけ動かしてを見た。
途端に、イルミの髪が指先からさらりと逃げていく。突然動くとは卑怯なり。
「髪だけ?」
「いや、羨ましいと思うトコならいくらでも」
強さでしょう、身長でしょう、指でしょう……と指を折って数えているを見上げ、イルミはため息をついた。
そう言われて悪い気はしないが、その答えでは問いと少しずれている。
「……何さ『指』って」
「え? イルミ、指綺麗じゃない」
憎たらしいくらいに、と心の中でこっそり付け加えた。
イルミの指は長くてほっそりとしている。縦長の形の爪も綺麗だ。
流石によりも大きく骨ばっていて、『男性』を思わせる。
この綺麗な手で人を殺すのか、と背筋が寒くなった。
この指が私の首に絡まって、きゅうっと締め上げられて……と妄想してしまい、は首を竦めた。
「強さ以外なら、だってどうにでもなる事じゃないか」
「……ほう、強さはどうにもならない、と」
本当の事なのだが、そんなにズバリと言われては地味に頭にくる。
眉間に皺を寄せつつ、深呼吸をして何とか怒りを静めた。
「冷静なご意見ありがとう。って、身長も無理なんだけど」
「そうなの?」
「そうなの」
残念な事に成長期はとっくに終了している。
へぇ、と初めて知ったと言わんばかりのイルミを見て、はため息をついた。
イルミはやはり、どこか人よりもずれている所がある。
「……ねぇ、俺ばっかり触られて不公平じゃない?」
イルミの不満そうな声を聞いて、はきょとんとした。
「お茶淹れてあげたじゃない」
「それで帳消しになるの?」
「なる」
あっさりとは言い切った。
イルミはそれでもまだ不満そうだったが、少し考えてポン、と手を打った。
どうやら良案を思いついたらしい。
「じゃあ、毎日お茶飲みに来よう」
「え、それはちょっと」
はやんわりと牽制した。
流石に毎日来られては鬱陶しい……ではなくて。
「何か不満があるの?」
「ううん、でも明日は来客が」
来るから、明日は都合が悪いんだけどな。
そう言い終わらぬうちに、イルミの低い声が重なる。
「誰?」
「仲間」
は正直に言った。
後ろめたい事ではないから、別に隠す理由はない。
だが、イルミは不機嫌さを露にを軽く睨んだ。
「蜘蛛か。……俺よりそっちを取るわけ」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「仕事関係で?」
は一瞬、答えに迷った。
イルミはその一瞬を見逃してはくれなかった。
彼の綺麗な片眉が、僅かに持ち上がる。
「誰が来るの」
「……ヒソカ」
は言いにくそうに、けれども正直に答えた。
比較される身としては最悪な人物の名前だ。イルミの声は一段と冷ややかになった。
比例して不愉快さもきっちり増しているようで、すぅっと目が細められる。正直、怖い。
「何しに?」
「さ、さぁ……ただ、行くってメールがさっき」
「俺よりヒソカが大事なんだ」
何を拗ねた子供みたいな事を、と言いかけて、は口をつぐんだ。
こんな至近距離で針を刺されてはたまらない。絶対に避けられない。
は何気なく話題を変えることにした。
「そうだ。調合したお茶、今日も持ってく?」
「うん」
「じゃあ包んでくる」
「ありがと」
このお茶を美味しいと言ったら、は茶葉をわけてくれた。
この世でイルミが美味しいという物は極少ないから、希少である。
家でも淹れさせてみたものの、が淹れた物とはほど遠い。
茶葉が同じでも味が全く違うから不思議だ。
いっそのことを使用人に雇おうか、とも思って話を持ちかけてみた。
だが何が不満なのか、は頑として譲らない。
今日もその話をする為に来ていた。
やはりあっさり断られたが、まだ諦めてはいない。諦めの悪さには自信がある。
「ね、。誰にでもこのお茶、淹れてあげてる?」
「え」
茶葉の包みを手にして戻ってきたに、イルミは問いかけた。
その問いは完全なる思いつきで、特に気になって仕方がないというほどではない。
はピタリと立ち止まると、思考を巡らせた。
「誰にでもってわけじゃないよ」
イルミに言われて初めて気がついた。確かに、淹れない人もいる。
淹れる・淹れないの違いが何なのか、自分でも明確にはわからないが。
「基準は?」
「い、いきなり難しいこと聞くねぇ。……うーん、少なくとも『私がいれた飲み物を警戒せず飲んでくれる』人?」
「……それ、広いよ」
呆れたようなイルミの声に、は首を捻った。
「そう? でも、信頼できない相手だと飲まないでしょ?」
相手を警戒しているならば、無意識にそうする。自衛の為だ。
わざわざ毒の可能性がある物を自ら体内に入れたりはしないだろう。
少なくともはそう思っている。
だが、イルミは肯定しなかった。
「そうなの? 俺は別に、毒入りだろうが気にしないけど」
「イルミは特殊なんだってば。……あー、そうなんだ」
「ん?」
「私のこと、信じてくれてるから……普通に飲んでくれるんだって思ってた」
違うんだね、と消え入りそうな声で呟くと、は目を伏せた。
イルミが僅かに目を瞠った気がしたが、それもただの気のせいかもしれない。
友人だと勝手に思っていた。
それがこんな、一方通行だったとは。
勿論、恋情などではない。
けれども、勘違いだった事が酷く恥ずかしかった。
どこまで思い上がっていたのだろう、私は。
「……ごめん、帰ってくれる」
は静かにそう告げた。
ちょっと本気で頭を冷やさねばならない。
茶葉の袋を机上に置くと、はイルミに背を向けて歩き出した。
もう今日はふて寝でもしておこう。
寝室のドアに手をかけた時、後ろから肩を掴まれた。
振り返らずとも誰だか判るが、振り返らずにはいられない。
見ると、やはりイルミが立っていた。
「何」
「……何で怒ってるの」
「何でひきとめるの」
イルミの問いには答えず、は問い返した。
気まぐれに振り回されるのはもう沢山だ、と半ば自棄気味になっていた。
そうやって引き止めるから。
そうやって、普通に家に来るから、すっかり勘違いをしてしまうのだ。
「何でって……何でだろ」
イルミは不思議そうに首を傾げた。
は睨みつけるようにイルミを見つめている。
じわじわと掴む力が強くなってきたので、は顔をしかめた。
ちょっと我慢できそうにない痛さになってきた。こやつ、乙女の骨を折るつもりか。
「イルミ、肩痛い」
「あ、ごめん」
イルミは素直に手を放した。
は苦虫を噛み潰したような顔で、しきりに肩口を擦っている。
力は入れていないと思ったが、そんなに痛かっただろうか?
イルミは自分の手を見つめた。
自分に背を向けたを見て、つい反射的に手が動いていた。
考えるよりも体が先に動いていたから、何故そうしたのか自分でもわからない。
黙り込んでしまったイルミを見て、は深い溜息を吐いた。
イルミに悪気があったわけじゃない事は、わかっている。
でも見事に肩透かしを食らって恥をかいた自分の怒りを、少しくらいはわかって欲しい。
(……でもきっと、わからないんだろうな)
イルミは感情に疎い。
それならば、怒るだけ時間の無駄か。
は諦めると、心を落ち着けるべく目を閉じた。3回深呼吸をして、この怒りを忘れよう。
ふいに、柔らかい感触がしたような気がした。
唇に。
は瞬時に目をぱちっと開くと、その感触がした部分に恐る恐る手をやった。
イルミは相変わらず、平然と目の前に立っている。
「……い、今、なにか……した?」
「え、だって目、閉じたじゃないか」
体が怒りで小刻みに震えてきた。
イルミはきょとんとして、あっけらかんにそう言う。
良いのかなと思って、と悪びれずに言うイルミを見て、の怒りは頂点に達した。
「イルミの馬鹿ーー!」
「何で俺が馬鹿なの?」
「誰がキスしていいって言った!」
顔を赤くしながら声高に言うが、イルミに反省の色は見られない。
それどころか、何か悪いことした? とでも言いたげだ。
はがっくりと肩を落とした。
もう何か疲れた。
常識が通じない相手がこれ程厄介だとは。
今まであまり真剣に考えたこともなかったが、今ようやく痛感した。
ちらり、とイルミを見上げた。
謝罪の言葉は、いくら待っても出てこないだろう。
は盛大に溜息を吐くと、無理矢理に笑顔を作った。
ちょっと引き攣っていたかもしれないが、この際大目に見て欲しい。
「……お茶、飲む?」
「うん」
はイルミを伴い、よろよろと居間に戻った。
イルミは大人しく椅子に座った。
イルミの所作で発生する音は極僅かで、まるで猫のようだとは思う。
人に容易く懐かない黒猫。
害のないように見せかけ、うっかり手を伸ばせばたちまち引っ掻かれ、傷口からは毒が浸透するのだろう。
今まで何度騙され、引っ掻かれたことか。
「……ふー」
お茶は美味しいし、天気は良く、風は肌に気持ち良い。
何かもう、どうでもよくなってきた。
そう、これ以上何を望むというのだ。
(……うん。今、悟りの境地を開いたかもしれない)
ちらりとイルミの様子を窺うと、何事もなかったかのような顔をして呑気にお茶を飲んでいる。
心なしか嬉しそうに見えるのは気のせいに違いない。
「で、。俺の家においでよ」
「嫌。……って、もう4回は断ったよね」
「5回だよ」
訂正されてしまったが、4回も5回も一緒だ。
はため息をつくと、呆れたようにイルミを見やった。
「……いい加減諦めて。というか、イルミの家では私の神経が持たないです」
イルミの事は嫌いではない。
だが、四六時中一緒にいるのは、やっぱり勘弁してもらいたい。
長子がこれでは、他の家族もきっとぶっ飛んでいるに違いない、とは考える。
イルミだけでも疲れるのに、これ以上心労を増やしてたまるものか。
「給料、今の3倍出すよ」
「お茶淹れるだけでっ!?」
「……うん。まぁ」
他にも、個人的に色々として欲しい事はあるが。
「言葉に詰まったのが気になるけど……3倍かぁ、3倍……」
今の生活に特に不満はないが、お金があるに越したことは無い。
ギリギリの生活からゆとりある生活へ。
3倍あれば、我慢していたあれもそれも買える。それはかなり魅力的で、の心は揺れた。
でも、ゾルディック。
お金に余裕があっても、心に余裕のない日々となるのは明らかだ。
はハッと我に返ると、未練を断ち切るかのように思い切り首を振った。
「……だ、駄目! やっぱ無理!」
「チッ」
「何か舌打ちが聞こえたような」
「気のせい気のせい」
疑うような視線で睨んでくるをあっさりと無視すると、イルミは机上にカップを置いた。
「……たまになら、来ていいからさ。それで勘弁してね」
にとって、それが最大限の譲歩だ。
だが、イルミは頷くどころかバッサリと切り捨てた。
「嫌だ。次はさらってくから、覚悟してね」
「げ」
幸い、今回は見逃してくれるようだ。
だがイルミが本気になったら、の意思など無関係に実行するだろう事は解かっている。
そして、逃げたとしても、世界中に安全な場所などないことも。
は脱力してテーブルに突っ伏した。
どうしたらいい? どうにもなりゃしない、と自問自答して、は自嘲気味に笑った。
「……ヒソカ助けてー」
「ふふ、◆ ボクの助けが必要かい?」
「え」
やけっぱちになって呟いた言葉に、返事があった。
とうとう幻聴まで聞こえるようになったか、と自分が心配になった。
だが、何やら一風違う空気の流れを感じるではないか。
パッと顔を上げると、ヒソカが窓にもたれるようにして立っていた。
一瞬、幻覚かと思った。いつの間に部屋に入ったのだろう。
ひょっとすると、窓から?
イルミはちらりとヒソカを見ただけで、何も言わなかった。
「何でここに……」
「ビックリさせようと思ってさ★ 来ちゃった◆」
「いや、『来ちゃった◆』じゃなくって」
「そしたらイルミがいるじゃないか……キミがいるなんて思わなかったよ★」
「そりゃどうも」
奇襲の件は置いといて、はこれ幸いとヒソカに助けを求めてみることにした。
今は悪魔にでもすがりたい気分なのだ。
もとい、ヒソカが天使とはお世辞にも言えない。
まずは腰を落ち着けて貰おうと、は新しいカップを持ってきてお茶を注いだ。
淹れながら、座るよう目で促すと、ヒソカは大人しく椅子に座った。
からカップを受け取り、ニッコリと微笑む。
「ありがと◆ ……ん、美味しい★」
「ありがと」
ヒソカにもこのお茶淹れてるよなぁ、とはぼんやり考えた。
何でこんなーー色んな意味で超人の二人に囲まれ、呑気にお茶なんか飲んでるんだろう。
「イルミ、の所によく来てるのかい?」
「まぁね。ヒソカは?」
「ボクもよく来るんだ◆ 彼女のお茶、美味しいからね★」
「うん。そうだね」
はそんな二人のやり取りを耳にしながら、自分のカップを手にして外を眺めていた。
会話内容にも、特に口を挟むことはない。
ああ、天気がいいなぁ。
「でも、それだけじゃないでしょ?」
「クックック、さてね◆」
ニヤリと意味ありげに笑うヒソカを、探るように見据えるイルミ。
場の空気がねっとりとした嫌な雰囲気になってきた。
はというと、未だに空を見つめて現実逃避していた。私は置物よ、置物。
「ねぇ」
「え、はい?」
素っ頓狂な声をあげて、は視線を空からイルミへと移した。
こっちに話を振られてしまっては、戻らざるを得ないではないか。さようなら空想。こんにちは現実。
「ヒソカはの何?」
「え? えーっと、仲間……だけど」
「俺は?」
何でそんな責めるような口調なのですか。
その視線の棘というか、ただ事ではない威圧感は錯覚でしょうか。
気のせいである、と無理矢理自分を納得させて、イルミが問うた答えを考える。
「うーん……と、友達?」
「何で疑問系なの」
あれ、友達ってことは否定しないの?
拍子抜けしつつも、の口はぽかんと開かれた。
「だって、さっき友達じゃないって言ったじゃない」
「……言ってないよ」
「え、嘘。……あ、言ってはないか」
でもそれと等しいことを言いましたよね? と、は反芻する。
イルミの深い目が、考え込むを見つめていた。
「もしかして、さっきの……、何考えてたの」
「言わなきゃ駄目ですか」
「うん」
当たり前だろう、テレパシーが使えるわけじゃなし。
そう言いたげなイルミの目を見て、の顔は引きつった。
言葉に出したって相互理解不能である場合、どうしようもないじゃないか。
皮肉ってやりたかったが、命は惜しい。
今はとにかく説明だ、とは気を取り直した。
「……だって、私イルミのこと友達だって勝手に思ってて」
「何処をどう取ったらそんなことになるの」
何だかごちゃごちゃしてきた。
話す順番がおかしかったのだろうか?
そういう考えに至る前の、イルミの発言から言うべきだったか。はちょっぴり反省した。
二人のやり取りを黙って聞いていたヒソカが、興味津々に身を乗り出してきた。
「ふぅん……は、イルミは自分を警戒してない、信用してるって思ってた★」
「……うん」
おお、居たでは無いか! 事態を客観的に見られる第三者が! うっかり存在を忘れていた。
一目見たら脳裏に焼きついて離れない程のインパクトを持つ彼を忘れてしまうなんて、今日は本当にどうかしてる。
「ふたりの基準が違ってたってだけだね◆ で、は自信なくしたってワケだ★」
「うん……いやーもう恥ずかしくってさ」
こう他者に冷静に分析される事も、非常に恥ずかしいのだが。
は虚しく笑いながら、力なく俯いた。
恥ずかしいよりも、再認識してがっくりきた。
「……よくわからないけど、勘違いしてる」
イルミがぽつりと漏らした言葉に、は思わず顔をあげた。
「え? 何が?」
「……うーん、何だろ。わからないけど、勘違いしてるってことは確か」
「すみません、私こそわからないんですが」
正直にそう言うと、イルミはをじろりと見た。
お願いですから、無言で圧迫しないでください。せめて言葉でお願いします。
当事者でないヒソカだけが、お気楽な笑顔を浮かべている。
「イルミは不器用だねェ★」
「何で?」
「の事どう思ってるの?」
イルミは突然すぎる話題の切替に驚いたのか、僅かに目を見開いた。
「……なんでその話になるんだ」
「でも、言ってないでしょ◆ 彼女が不安に思ったことはそれだよ★」
そうヒソカは断言した。
さすがヒソカ、読みが深い。
が面と向かって言い辛いことも、ヒソカにはあっさり伝わってしまったようだ。
この洞察力というか分析力というか、むしろ勘かもしれないが……には恐れ入る。
イルミは更に目を丸くし、の方に視線を戻した。
「……そうなの? 」
「……うん」
素直に認めるのにはちょっぴり抵抗もあったが、は小さく頷いた。
「知らなかった。そんな事で悩んでるなら早く言ってよ」
言ったからといって素直に教えてくれるとは思えないのですが、気のせいでしょうか。
物言いたげなの視線を無視すると、イルミは首を捻って考え込んだ。
「……」
「……」
一応真剣には考えてくれているのだろう。
はドキドキしながら、イルミの反応を待った。
一体、どんな答えを出してくるのだろうか。
長すぎる間をおいて、イルミは何やら頷いた。結論が出たらしい。
イルミは確認するかのように、をちらりと見た。
「の事は嫌いじゃないし、結構気に入ってる」
「そ、そうなの」
面と向かって言われると、照れる。
視線を彷徨わせ、もじもじしている。
何事もなかったかのよう、無表情にお茶を飲んでいるイルミ。
ヒソカはそんな二人を見比べると、悪戯っぽく微笑んだ。
「……イルミ、ボクが貰ってくからって言ったらどうする?」
「止める」
さらり。
ヒソカの意地悪い問いかけに、イルミは間髪いれずに返した。
その答えに満足したのか、ヒソカがにんまりと楽しげに笑う。
「何で?」
「戯れだろ? ヒソカが本気だと思えないし」
は単純だからね、遊ばれるのは見てられないよ、とイルミは淡々と続ける。
笑顔のまま、すぅっとヒソカは目を細めた。その目が妖しい光を宿している。
あれは何か企んでいる顔だ。
しかも、あまりよろしくない類の企み。
「……本気だって言ったら?」
「止める」
「何で?」
「とヒソカは合わない」
ヒソカの挑発も何のその。イルミは動じない。
ヒソカはクックッと喉で哂うと、もうひとつ質問を投げかけた。
「クロロだったら?」
「同じことだよ。とは合わない」
ズバリ。
クロロは見目も非常に良い。腕もかなり立つ。
性格はちょっと厄介ではあるが、それを差し引いても彼の魅力は余りある。
そんなクロロがお相手として即刻却下されることは、そうそう無いのではなかろうか。
「もう、もどかしいなァ……を取られるのは嫌だって言いなよ★」
「え、そんな事言ってないけど」
イルミは不思議そうに目を瞬いた。
それを見て、ヒソカが呆れたような深い溜息をついた。
「……じゃあさァ、誰ならに合うって思うんだい?」
「俺」
答え辛いだろうと思っていたこの問いにも、イルミはあっさりと即答した。
別に何でもないことのように。
イルミの遠まわしの告白ともとれる言葉に、の頬がぱっと染まった。
「……他には?」
「うーん……今のところいないね」
そう言ってのけると、イルミはお茶をまた一口流しこんだ。
特に動じた様子もない。オーラにも、動揺した気配は微塵もなかった。
「……、わかったかい?」
「ん、十分……」
ヒソカとはぐったりした様子で、互いに小声で囁きあった。
ヒソカの疲弊した顔を見たのは初めてかもしれない。珍しいものが見れた。
「……何ふたりとも、疲れた顔してるの」
イルミが憮然と呟く。
だがは、何とも形容しがたい表情で曖昧な笑みを浮かべるだけだった。
イルミには、二人の苦笑の意味がわからない。
自分の答えたことすら理解していないのだから、わからないのも無理は無いが。
「あー……うん」
「……さぁねェ◆」
二人は視線で会話する。
ヒソカと何を通じ合ってるんだか。
イルミは釈然としないものを感じていた。
ヒソカと仲の良い様子のを見ていると、確かにこれは不愉快だと思った。
だから。
「……やっぱり、今日つれて帰る」
イルミの決意は岩よりも固かった。

===== あとがき ===
ほのぼのでした。
可愛い感じに。イルミとヒソカのセット、好きです。
読んでくださってありがとうございました!
(2015.8.27 山藤)