彼女を操ろうと思った。
だが逆に、操られているような気分になる。

よく笑うようになった。よく話すようになった。以前よりは、ずっと。

そして、愛しくなった。以前よりも、もっと。

人形から人間へ孵化しつつある彼女から、いつのまにか目が離せなくなっていた。
目覚めたばかりの彼女はとても危なっかしくて、それでもその姿は可愛かった。

見守っていたい。壊したい。

保護欲と破壊欲との両方が、ヒソカの胸中には渦巻いている。














 
愛しの殺戮人形













今まで住んでいた部屋を移った。
ヒソカが、幻影旅団をやめたそうだ。だから、用心の為。らしい。

相変わらず、待つことしか許されない。
変わったことといえば、ヒソカは専用の携帯を私にくれた。寂しくないように、と。

ヒソカは帰ってこない。
何処で何をしているのかすら、私は知らない。

最初からしばらく家をあけるつもりではあったらしく、最後に帰ってきた時に、大量の食料をかかえていた。
でも、ヒソカはやっぱり何も言わなかった。

今度帰るのはいつだろう。
言っていた通り、毎日必ずメールはくれる。
それで、ヒソカが生きていることを知る。けれど、ヒソカの顔が見えない。

会いたい。

携帯が鳴った。ヒソカからの、初めての電話。
は高鳴る胸を押さえながら、通話ボタンを押した。



「はい」
『もしもし、? ボクだよ◆』
「うん」



ヒソカだ。
思わずの顔が綻ぶ。



『今日そっちに戻るからね◆』
「ん」



やった。嬉しい。
言葉には出せないが、は安堵した。

これでやっと、ヒソカに会える。



『長いこと帰れなくてゴメン◆ あと、もう1人連れていくから◆』
「? もう1人って?」
『ふふ、会ってみてのお楽しみ◆ じゃ、もうすぐ着くからね◆』
「わかった」



通話ボタンを切り、はしばし温かな余韻に酔いしれた。

帰ってくる。
でも、もう1人?

は首を傾げた。
勿論だが、に心当たりは無い。

ヒソカの友人?
でも、ここには誰も来させないって言っていたのに?



「ただいま◆」
「ヒソカ! ……おかえりなさい」
「……ごめんね、寂しかったろ?」
「ん」



ヒソカはぎゅっとを抱きしめた。
そこでやっと、ヒソカの後ろに立っている男に気がついた。

その男には、見覚えがある。は目を見開いた。



「!」
「あの時の女か」



彼も、のことは覚えていたらしい。



「そうだよ◆ あ、、こっちは……って、顔見知りか◆」
「クロロ・ルシルフルだ。よろしくな」
だ。……ヒソカ?」



は怪訝そうにヒソカを見た。

何故、幻影旅団のリーダーをここへ連れてきたのだろう。
幻影旅団はやめたと言っていた筈だ。
それに、危険だからと場所さえ変えたというのに。

ヒソカの意図が読めない。

ヒソカは相変わらず笑みを刻んだまま、に説明し出した。
クロロは、おとなしく後ろに立っていた。

出会った時と、印象がまるで違う。
本当に同一人物なのかと疑いたくなる。



「実は、クロロは念を封じられちゃってね◆ 戦ってもつまらなくなったんだよ◆ だから今、除念師を探してるんだ◆」
「除念師……」
「そう◆」



それから、ヒソカは詳細を教えてくれた。

クロロが、クラピカという鎖使いに念を封じられた、ということ。
だから今、クロロは旅団員とはコンタクトがとれない、ということ。
予言に従って東へ向かったところ、グリードンドに突き当たった、ということ。
そのグリードンドに、除念師がいる、ということ。
だから、唯一コンタクトの取れるヒソカに会い、ゲームの中に行ってくれるよう頼んだ、ということ。

は、黙ってそれを聞いていた。

そういうことか。

グリードンドというゲームの事は、知っている。
念を使えなければ、入ることすらできないゲーム。



「だから、クロロとしばらく一緒に生活してもらうんだけど……いいかい?」
「う、うん……」



頷いてみたものの、正直不安だ。

けれど、ヒソカの判断は正しい。
念に対して無抵抗な今、実力のある賞金首ハンターに狙われでもしたらひとたまりもないだろう。
今の彼は、あまりに無力だ。

やっと、ヒソカの意図を理解することができた。



「それと、◆ クロロを守ってくれないかい? 念なしじゃ、だいぶ不利だし◆」
「……ああ」



は当然のように頷いた。ヒソカの願いを断るはずもない。
ヒソカに頼られた事が純粋に嬉しかった。

食事を終えると、3人は居間に集まった。
ヒソカが、ゲーム機をテレビの前に置いた。もうゲームの入手は終えていたのか。
くるりと振り返る。



「じゃ、行ってくるね◆」
「気をつけて」
「頼んだぞ」



ヒソカはゲーム機に両手をかざすと、纏を行った。
ヒソカの姿が消え去る。

またしばらく会えないな。そう思うと、気が重かった。

しかたない。
今は、ヒソカから頼まれたことをしっかりやろう。

は自室に戻ろうと、向きを変えた。

クロロが、じっとを見ていた。
何となくムッとして、は訝しげにクロロを見た。



「……何?」
「いや、見違えたな、と思って。あの時は人形にしか見えなかったけど」
「そう」



は素っ気無く返した。
クロロは微笑を浮かべていた。
ヒソカの言葉を思い出す。


『クロロ、に手出ししたらタダじゃおかないよ◆』
『わかってるさ』


ヒソカは、真剣な顔でそう言っていた。
クロロもそれに承諾していた。
今はまだ、ヒソカの協力が必要だった。


(惜しいな)


すたすたと歩くの後姿を見ながら、クロロはそう思った。

以前から、彼女に多少興味はあった。
あの気まぐれなヒソカが、執心している女。それだけで十二分に興味の対象になった。

クロロは少し思考を巡らせた後、ヒソカの使っている部屋へ向かった。


そうして、奇妙な生活が始まった。







翌日。

は目を覚ました。

毎日、機械のように同じ時刻に目が覚める。
それがちょっと不満である。
同時刻に起きるからといって別段不都合はないのだが。

軽く息を吐いて、はゆっくりした動作で隣を見た。
そこにヒソカが居ないのが悲しい。

は諦めて伸びをすると、ベッドから立ち上がった。

リビングに行くと、既にクロロが起きていた。
それを見て、はぎくりと立ち止まった。そうだ、私一人ではなかった。

シャワーを浴びたのか、濡れた髪が首筋に張りついている。
髪を下ろしたクロロは意外と幼いな、とは思った。

クロロはの姿に気がつくと、にっこりと微笑んだ。



「おはよう」
「……おはよう」



は目を伏せると、小さく呟いた。
ヒソカ以外の人間と会話するのが久しぶりで、は少し戸惑った。

そして、この得体の知れない男と過ごさねばならない現実に気づく。

ああ、やっぱり嫌だ。
いくらヒソカの頼みとはいえ。

は早速、安請け合いしたことを後悔し始めた。

別にクロロ個人が特にどうこうというわけではない。
他人と交わるのがどうも不得手なのだ、自分は。

が頭を痛めていると、クロロが顔を覗き込んできた。
驚いて、は思わずあとずさった。

すると、何故かクロロは眉をひそめて悲しそうな顔になった。



「ねぇ。俺のこと嫌いかい?」
「?」
「何か避けてるみたいだから」



ズバリと言われ、は固まった。

この男、意外に鋭い。
というか、今のの挙動を見れば、誰でも察しはつくだろう。



「そ、んなことは……ないが」
「だったら、どうしてそんなに距離をとるんだ?」



どうしてと言われても、赤の他人なのだから仕方ないだろう。
常人ならすぐさまそう反論するだろうが、にはできなかった。

は視線を彷徨わせながら、言葉を飲み込んだ。



「まぁ、昨日会ったばかりだから、それは仕方ないとして」



クロロは、大げさに溜息を吐いた。

まさか、傷つけてしまった?
慌てて、は弁解するように口を開いた。



「あの……どう、接していいのか、わからないんだ」
「え?」
「その……すまない」
「ヒソカとは普通に話すのに」



一瞬、クロロがすねた子供のように見えた。きっと見間違いに違いない。
は言葉に詰まった。



「だって、それは」
「ヒソカ以外の人間と会うのって、久しぶりなの?」



言葉を遮り、クロロは自分のペースで話を運ぶ。
は真剣な表情で、無言で頷いた。



「じゃ、にしてみれば、俺は珍獣ってわけか」
「そ、そういうんじゃ」



てっきりクロロが気を悪くすると思って、は慌てて否定した。
が、意に反して、クロロは楽しそうに笑い出した。



「あはははは! そうか、そうだよな」
「……」



は、本気で対応に困っていた。

実は、クロロが故意にを困らせようとしているのだと、が気がつくはずもない。
完全にクロロのペースだった。



「ま、いいか。これから知っていけばいいんだし」
「……」
「……今、困ってるだろ?」



コクリ。

は頷いた。
クロロはまた楽しそうに破顔した。



「はっはっは! は面白いな!」
「そうなのか?」
「ああ」
「……」



わからない。
何なんだこの男は。

蜘蛛のリーダーだから、多少変わってるんだろうとは思っていたけど。
突然笑ってみたり、変に子供じみていたり。ヒソカ以上にわけがわからない。

よく喋るし、よく笑う。
けれど……なんというか、曖昧だ。
何を考えているのか、全く読めない。

本心が見えない。
だが、言ってることが嘘だとも思わない。

何となく、ヒソカを連想させる。

二人とも、どこか雰囲気が排他的だ。
それも、二人して独特の。

けれど、彼とは決定的に違う。
何処がと問われれば………何処だろう。

唯、ひとつ言える。
こういう人間は、とても厄介だ。



「クロロ、さん」
「クロロでいいよ。俺ものこと呼び捨てにしてるし」
「……じゃあ、クロロ。食事はどうする?」



クロロは少し考えこむ素振りを見せた。



「外食でもいいけど、君は俺のボディガードもしなくちゃならないんだろ? つまらない小競り合いは避けたいな」
「じゃ……何か、作る」
「ありがとう」



はキッチンへと向かった。

は慎重に、言葉を選びながら話しているように見えた。
クロロは微笑を浮かべた。



(なるほどな。ヒソカの言っていた通りだな)



ふいにまた、ヒソカの言葉を思い出す。
来る前に、いくつかのことを教えられていた。


『クロロ、多分は君のことを持て余すだろうから、君に先に言っておくよ◆』


歩きながら、ヒソカがふいに話し出した。
持て余すのは決定事項なのか? 失礼な男だ。


『あまり人と接することがなかったから、人見知りの激しいコでね◆』


クロロはちらっとヒソカを見ると、そのまま黙って聞くことにした。


に話しかける時は、少し待ってあげること◆』


生まれたての子供みたいなモノだから、と、ヒソカは付け加えた。


『少し時間がかかるけど、それは、適切な言葉を探してるからなんだ◆
 待ってたらきっと、彼女なりに答えを返してくれるよ◆』


そうして、ヒソカは目を細めて笑った。
のことを話すヒソカは、とても楽しそうだった。


『だから、焦っちゃ駄目だよ◆ じれったいかもしれないけどね◆』


その時は、どういうことかいまいちピンとこなかったが、本人を目の前にすれば解かる。
ヒソカがのことを子供のようだと形容したのは、今思えば適切だった。

本当に面白い。

あんなにも美人なのに、と、クロロはこっそり付け足した。








深夜。

カチャリ、と小さな物音がした。

拡散しかけていた意識が、みるみる集約する。
クロロは起き上がり、そっとリビングへ向かった。
案の定、招かざる客がそこに居た。



「クロロ・ルシルフルだな。その首、もらいにきた」
「やれやれ、物騒だな」



クロロは軽く溜息を吐いた。
だが、内心少し焦っていた。

敵の念レベルはなかなかのもの。一般で言う相当の使い手だと言っても過言ではない。
いつもの自分なら軽くあしらえるのだが。
おそらく、ブラックリストハンターの中でも、上位レベルだろう。

今はこの程度の敵ですら、自力では倒せない。は起きているのか?

わからない。が、彼女の部屋から物音はしない。

ちょっと起こしてくるから、そこで待っていてくれないか。
なんて提案をクロロがしても、敵が待ってくれる筈もないか。さて、どうしたものか。

男はクロロめがけて駆け出した。
クロロは咄嗟にベンズナイフを取り出した。これで少しでもけん制できればいいのだが。

ゆらり、と物陰からが現れた。



「! 誰だ貴様!」



男は予想外の状況に驚き、後方に飛んで間合いをとった。
恐らく、の存在は男の情報にもなかったのだろう。
それは仕方ない。クロロさえ知らなかったのだから。

あの後、気になって調べたことがあった。だが、依然として消息は不明、とだけしかわからなかった。
ヒソカめ、上手く隠したな。

は視線を男へ向けた。
だんだん、その瞳が奇妙な光を宿し始める。



「名乗る必要などないだろう。今から死ぬ奴に」



は歌うように死の宣告を与える。


久しぶりのナイフの感触が懐かしい。

あれからブランクが少しあるので心配はしていたが、どうやら杞憂だったようだ。
驚くほど手にしっくり馴染む。

あとは、血を。それで完璧だ。

は薄っすらと微笑んだ。
そして、クロロに下がるよう目で促す。

彼女が対抗できるのだろうか?
クロロは心配になったが、大人しく事態を見守ることにした。

鼓動が高鳴る。
あぁ、この感触だ。私は。








クロロは、目の前に繰り広げられた光景を、唖然として見ていた。

よもや、ここまでやるとは思っていなかった。

男は、あまりにあっけなく絶命した。
その屍の傍らで、は冷たく男を見下ろしている。
手の血塗られたナイフからは、未だ鮮血が滴り落ちている。

彼女の瞳は歓喜と狂気の炎を宿していた。
は凄まじく……激しくて、クロロはすっかり目を奪われていた。

今のこの瞬間だけ、彼女は完全なる『人間』になる。

自分と同等か、もしくはそれ以上。クロロはをそう評価した
ヒソカが、を手元に置いている理由。
今、その理由が解かった気がする。
この激しさは、確かに手放すには惜しい。クロロでさえ、欲しいと心から思う。

はもう熱から冷めているようで、瞳は次第に虚無へと変わっていった。

愛しい人形。
クロロは今、彼女に対する愛しさすら感じ始めていた。

脳髄が痺れるような甘い感覚に、クロロは首を振った。眩暈がしそうだった。

クロロは、そうっとに歩み寄った。
刺激しないよう、慎重に背後から声をかける。



「驚いたな。強いんだね」
「そう」



はクロロの方を少しも見ない。
そして、無表情のまま死体を片付けにかかった。
クロロはその間、じっと探るような目でを見つめていた。



「……欲しいな」
「? 何を」



クロロは強引にを引き寄せると、口づけた。
今はもう絶命している彼の血が、周囲にわずかに飛散する。唇は血の味がした。



「ヒソカなんてやめて、俺にしない?」
「はなせ」



は少し眉をしかめると、クロロの体を押した。
だが、クロロはを抱きしめたまま、離さなかった。
ニッと不適な笑みを浮かると、に顔を近づけた。



「駄目。君のことが気に入った」
「……何故?」
「? 何でって……そうだなぁ、君は物凄く印象的だから」



この男……一体、何を言っている? わからない。

は訝しげにクロロを見つめ返した。
そして、やっと理解した。
何故、この男がヒソカと似てるなどと思ったのかを。

この目だ。
この、人の心すら見透かすような。

静かな、力強い瞳。
狂気すら伺わせる、暗い瞳。自ら闇を抱えている者の。

この目が危険だ。
ヒソカよりも、もっと危険。

そう直感した。
この男から離れなければ。



「そこまで◆」



その声にバッと顔をあげると、そこにはヒソカが立っていた。



「ヒソカ!」
「……おしかったな」



クロロは臆面もなく、残念そうにそう呟いた。
ヒソカは目を細めると、冷たくクロロを睨む。



、こっちへおいで◆」



はクロロの腕を払うと、ヒソカの元へ駆け寄った。
流石にクロロもを解放せざるをえなかった。

は安堵し、ヒソカに抱きついた。
ヒソカは満足そうに笑うと、の顎を持ち上げた。軽く口づける。



「消毒★」



にニッコリ笑いかけた後、ヒソカはクロロに向き直った。



「クロロ、には手を出すなって言った筈だけどね?」
「そういえば、そんな事も言っていたな。それがどうした?」



クロロは憮然とそう言い放った。
彼にしては珍しく、挑戦的な目をしている。



「ヒソカ、俺にをくれないか?」
「断る◆」



ヒソカは間髪いれずに返した。その顔にいつもの笑みはない。
クロロは興味深げにヒソカを見ると、薄っすらと笑みを浮かべた。



「なら、無理矢理にでももらっていこうかな」
「させないさ◆」



ピリピリとした空気がその場に漂った。
お互いがお互いを牽制し合っている。

実際に戦闘になれば、クロロに分は無いのだが。
どうしてこうも強気に出られるのだろうか、とは不思議に思った。彼の性格か?

しばらく膠着状態だったが、ふいにヒソカが話を切り出した。



「除念師を見つけたら」
「?」



はヒソカを見上げた。いきなり何の話を?



「約束通り、決闘するでしょ?」
「あぁ、そうだな」



は目を見開いた。
そんなこと、聞いていない。

血の気が引く。顔が青ざめていくのが、自分でも解かる程だ。
急に手足の力が抜けてしまい、はヒソカにしがみついた。

ヒソカは、を支えるようにその肩に手を回す。
そして、クロロをじっと見ながら続けた。一瞬たりともを見ない。



「そこで、ボクからの提案だ◆ 生き残った方が、を所有する★」
「! ヒソカ!」
「どうだい? 悪くない話だろ?」
「ふむ……そうだな」



クロロは顎に手を当てて、しばらく考え込んだ。
そうして、じっとヒソカを見、次いでを見る。
クロロは溜息を1つ吐くと、頷いた。



「わかった。それまでは、に手は出さない」
「どうも◆ さ、、おいで★」



ヒソカはの手をひいて、の部屋へ向かった。
パタン、と後ろ手に扉を閉める。
その途端、はヒソカに詰め寄った。



「何で……ヒソカ!」
「……ごめんね、怒った?」
「どうしてあんな事!」


は悲しげに目を伏せた。勿論、怒ってなどいない。
ただ、彼を失うのが怖い。


嫌だ。

ヒソカと、離れるなんて。ヒソカが、死ぬなんて。考えただけでも絶対に嫌だ。

ヒソカを見上げると、彼は、少し寂しげな笑みを浮かべていた。
それを見て、も言葉に詰まる。
は、ヒソカの視線に耐え切れずに目を逸らした。

そしてまた、絶望感に体が震える。ヒソカは本気だ。



「もしボクが死んだら、君はどうなるんだろうって思って」
「もう一人では生きられない。ヒソカと一緒じゃなきゃ、生きていけない」

「ヒソカの所為だ。だから、ヒソカ……」



ヒソカの言葉を遮って、は吐き出すように胸のうちを訴えた。
今にも泣き出しそうなを、ヒソカは優しく抱きしめた。

彼女を残して逝くには、あまりにも心残りだった。

が、こんなに悲痛な表情を浮かべている。
それだけで、こんなにも胸が痛む。

今までは失うものなど何一つ無かったのに、とヒソカは苦笑した。



「……うん、わかってる◆ ボクは死なないよ★ クロロはただの保険さ◆」



君の為の。
それが、自分にできる精一杯のこと。

クロロを選んだのは、簡単な理由だ。

クロロとヒソカは闇を持つ。同じくらいに深い闇を。
そして、彼ならばきっとを気に入るだろうと思っていたから。

他の男にやる位ならば、いっそ殺してしまおうかとも考えた。
ならば、そちらを望むだろうということも。

けれど、には生きて欲しい。
解かってる。それはただのエゴだということくらい。



「ヒソカ」
「だから泣かないで、◆」



ヒソカは沈痛な面持ちで、を強く抱きしめた。

そして、何故かヒソカは嬉しかった。
彼女は、自分の為に今、泣いてくれる。それが嬉しかった。

もし自分が死ねば、は確実に殉死する。

けれども、ヒソカはそれを望んでいない。
彼の望みは、が生きていくこと。

それはとても残酷なことだと知りながら、ヒソカはそう願っていた。






全く、ヒソカらしい。
自分の死は全く厭わない癖に。

ただ気がかりなのだろう。残して逝くのことが。

ヒソカが命を落とせば、必ずはヒソカの後を追う。
ヒソカは、それを避けたいのだろう。あいつらしくない。

を俺に任せるのは、俺が一番安心だということか。

その選択は正解だ。
俺は、興味のあるものは手放さないから。
そして、は永遠に俺を飽きさせないだろう。

ヒソカが、が生きていくことを願っているのならば。
まぁ、その願いくらいは叶えてやるさ。
元・団員のよしみでな。

負けられないな。なおさら。







クロロか、ヒソカか。

そのどちらかの傍らで、生きていく。
ヒソカがそれを望むなら、それに殉じよう。

でも……どうか、私の手を取るのがヒソカでありますように。











===== あとがき ===

 VS クロロちっくに(・▽・)
 間にもう1つあった日常生活っぽい話、省略しました。
 
 クロロ夢な香りですが、ヒソカです(・ω・)
 でも、ヒロインはクロロ<<ヒソカなわけで……って、これじゃあクロロが出た意味がゴホゴホ。。
 
 今のトコここまでです。
読んでくださってありがとうございました!

(2015.8.27 山藤)




 2007.5.2 修正