恋の駆け引き Lv.1












穏やかな昼下がり。
フィンクスは何をするともなしに、横になって雑誌を読んでいた。
フィンクスの退屈な心を満たしてくれる程、面白くはない。

今日は夜に仕事がある。
強制ではないのだが、まぁ暇だから、とフィンクスも参加することにした。

だが、それまでやることがない。
出かけてもいいが、今日は少々面倒くさい。
なかなか大きな街だし、楽しめそうな事は探せばあるのだろう。気が乗らないが。

というか、男同士で連れ立って街に出かけるというのは何とも味気ない。
華が無い、というか、あまり美しくはない光景だろう。

なら誰か女性と、と考えてみても。
女性陣の中でも割とよく一緒に行動することの多いパクノダは、今回は珍しく来ていない。

マチもシズクも嫌いなワケではないが、二人とも気乗りしない事には絶対首を縦に振らないタイプだ。
譲って相手に付き合う、ということをしない。
面倒、の一言であっさりと終わるだろう。

誘いたい相手は、いる。
女性陣の残りの一人、

だが、これが一番問題である。

本当は、すぐにでも彼女に声をかけたい。
多分、誘えばすぐに乗ってくれる。
けれど、本命だからこそ声をかけづらいのだ。
その上、ライバルもちらほら居るのが厄介だ。
抜け駆けなどしようものなら、ものの数分でボコボコにされるだろう。

けん制し合って微妙な均衡を保ってはいるのだが、この状態がいつまで持つものやら。

なので、今回はおとなしく自室で過ごすことにしたのだ。



「やっほーフィンクスー……」



フィンクスはいささか驚いて、声のした方を振り返った。
その声音は、明らかに不機嫌そうだった。心なしかオーラも鉛色に見える。

フィンクスは用のなくなった雑誌を乱雑に放り投げると、立ち上がった。
機嫌が悪い理由は何となく察しがついたが、フィンクスは素知らぬ顔でを招き入れた。




じゃねーか。どうした?」



は不貞腐れた顔をして、フィンクスの寝転がっていたソファーベッドに腰を下ろした。



「今回、待機組みたいなの。つまんない……」
「ふーん。で、誰と待機なんだ?」



フィンクスはそれとなく聞いてみた。
フィンクスにとってそれが最大の関心事だったのだが、は首を横に振った。



「そこまでは知らないけど……あー! もー! 暴れたいー!」
「まぁまぁ、落ち着けって」 



不満を口にするを、フィンクスが宥める。
あの、旅団で1,2を争う程血の気の多いフィンクスが。
は相当不満らしく、苛立ちは治まらないようだ。



「何で最近、待機ばっかなの!?」
「そりゃ」



団長がのことを大切に想ってるから。

なんてことは、口が裂けても言えない。

言いかけて、フィンクスはやめた。誰が言うか。
わざわざ団長の援護をしてやる義理は無い。

危ない橋を渡らせたくない団長の気持ちも、わからないことはないのだが。
少しずれてるんじゃないのか、とフィンクスは密かに思っている。

は不思議そうに首を傾げ、フィンクスの顔を見上げた。



「? 何?」
「いや、何でもねェ」
「ちぇっ、つまんないの」



は溜息をつきながら呟いた。
実働部隊の方を好むにとって、クロロの配慮は逆効果でしかないようだ。
フィンクスは内心ほくそ笑んだ。

二人で他愛もない雑談をして時間を潰すことにした。






「今回はとフィンクスに待機してもらう」
「!? 何で、俺がっ!」
「私も嫌ー!」



フィンクスは突然の指名に驚いた。
まさか、自分が待機組なんて思ってもみなかった。

口々に不満をまくしたてる二人に、クロロは冷たい一瞥をくれた。



「団長命令だ」
「最悪……」
「チッ」



不満はあるものの、そう言われては黙るしかなかった。

クロロは他の団員を引き連れてさっさと出かけて行った。
恨みがましく団長の背中を睨むを、フィンクスが小声で宥める。
二人はおとなしく広間で待機することにした。

でも、フィンクスは内心嬉しい。
何といっても、と二人っきりだから。
暴れられないのは残念だが、今はと留守番の方が良い。
ただでさえ出遅れてるのだから、この際もっと仲良くなっておくのが上策だろう。



「暇ー……」
「なら、俺とヤるか?」



フィンクスは大胆に迫ってみることにした。
これを機に自分を『男』として見てくれるようになればいい、と思いながら。

常々思っていたのだが……どうも、単なる『友人』としか見られていないような気がするのだ。
互いに気兼ねなく何でも話せる仲。
それはそれで良い関係なのだが……フィンクスの望む関係とは少し違う。

はきょとんとしてフィンクスを見つめ返した。



「ん? 闘るの?」
「……いや、そっちじゃなくて」
「……ん?」



フィンクスの真意が解からないようで、は首を傾げている。まさか、コイツ。



「なァ、お前って処女だったりするのか?」
「! 何てこと聞くのよ! 馬鹿!」



は顔を赤くして、近くにあった瓦礫をフィンクスめがけて投げつけた。
結構なスピードだったが、フィンクスは難なくそれを避けた。
瓦礫は派手な音を立てて壁にぶつかると、粉々に砕け散った。痛そうだ。



「悪ィ。でも、意外だな」
「悪かったわね」
「いや、そっちのが良い」
「は?」



突然、の視界は回転した。
平たく言うと、フィンクスに押し倒された。

は驚いてフィンクスの顔を見上げた。



「な、何する……っ!」
「何って、暇なんだろ? 俺の相手してくれよ」



フィンクスは、ニヤリ、と楽しそうに笑った。
まともに目が合ってしまって、の顔は朱に染まった。
いくら鈍いでも、この状態が何を意味するのかくらいは解かる。
は慌てて、ちぎれんばかりに首を横に振った。



「嫌!」
「良いじゃねーか。減るもんじゃなし」



フィンクスは表面上は余裕をかましながら、逃がさないようにの腕をグッと握り締めた。
一見凶悪そうに見える彼の顔が、この時は本当に悪魔に見えました。



「減るっつーの! ギャー! フィンクスの変態ー! 痴漢ー!」
「何とでも言え」



の抗議も笑い飛ばし、フィンクスは更に距離を縮めた。

フィンクスの顔が至近距離にある。
はぎょっとして咄嗟に逃げようとしたが、力でフィンクスに敵うはずがない。



「団長に言ってやるー!」
「……ほォ。んじゃ、ますます口止めが必要だな」
「いや、ごめん。撤回する。だから、マジやめて下さい」
「よし」



フィンクスは名残を惜しむように、ゆっくりと体を離した。
心臓が煩い。お互い。
あまり慣れないことをするものではないな、とフィンクスは思ったとか何とか。



「……やっぱ、最悪」
「何か言ったか?」
「いえいえ。ナンデモ」



まだの顔は赤い。
だが、どうやら照れているだけで、嫌われたわけじゃなさそうだ。

フィンクスは内心安堵し、笑みを零した。

またとないチャンスだった。
正直、残念だ……と、このくらい思っても罰は当たらないだろう。
これで多少はの意識も変わるだろうから、良しとするか。
これから、この距離を縮めていけばいい。

一歩半くらいだが、クロロ達よりもリード。

この差は大きいかな、とフィンクスはちらっとの様子を窺った。
と、もフィンクスの方をぼーっと見ていたらしく、もろに目が合った。

はハッとすると、慌てて視線を逸らせた。
その様子が何だか可愛らしくて、フィンクスは笑みを深めた。



「……なァ、?」
「!? 何……でしょーか?」



低めの声で小さく声をかけると、はビクッと体を震わせた。
素直すぎて面白くて、フィンクスはまた笑った。



「ハハハ、そう怯えるなよ。やっぱ面白いな、お前」
「誰がっ!」
「好きだぜ」
「! ……」



また、突然フェイントを交えてみる。効果はあるだろうか。

は何か言い返そうとして、押し黙った。
本当に反応が素直で可愛らしい。



「皆、そろそろ帰ってくる時間じゃねェか?」
「そ、そうだね……うん」



はあからさまに安堵の表情を浮かべた。
それが少し気に食わなくて、フィンクスは眉間に皺を寄せた。



「なァ」
「うん?」
「俺、が好きだって言ったな?」
「う、うん」



は視線を逸らせながら、顔を赤くしてそう呟いた。
フィンクスは立ち上がると、の頭をぽんぽんと軽く叩いた。



「返事、今度聞かせてくれ。んじゃな」
「あ、フィンクス! 何処に……」
「退散するのさ。団長達が戻ってきたからな」



そう言うが早いか、素晴らしく俊敏な動きでフィンクスは去っていった。
次いで、確かに団長達の気配がした。
円を使っていたわけでもないのに、とは妙に感心した。

ホッとしたような、残念なような、複雑な気持ちだった。

そして、どう返事をしたものかとは頭を悩ませていた。

フィンクスは本気なのだろうか。
だとしたら、どう返事をしたらいいのか。
その前に、次にどんな顔をして会えばいいのか。
気恥ずかしくて、もうまともに顔も見られないかもしれない。

嬉しいような気もするのだが、反面、こういう場合どうしていいのかわからずに困る。

マチかパクにでも相談してみようか。
彼女達なら口が堅いし、何か良いアドバイスをくれるかもしれない。
……シズクはやめといた方がいいかもしれない。

でも、そういうのは良くないのかもしれない。第一、フィンクスに悪い。
ここはやはり、自分で考えて自分なりの答えを見つけるべきか。

そんなことをグルグルと考えて、だんだん頭が痛くなってきた。
けれど、口元は僅かに微笑んでいた。


全く。
してやられた感が否めない。



「……何て言おうかな」



しばらくは、夜も眠れそうにない。










===== あとがき ===

ほのぼのでした。たまには強気に攻めてみる。

読んでくださってありがとうございました!

(2015.8.27 山藤)