PLAYROOM











「えー?! フェイタン! それ私の! とらないでよ!」
「ぬるい攻撃してるお前が悪いね」


賑やかな声と、面倒くさそうに返す声。

コントローラを握りしめ、二人は新作ゲームで絶賛対戦中である。二人でせまりくるゾンビ達を、次々と撃ち倒していく。
フェイタンとは数少ないゲーム仲間だった。

面白そうなゲームが発売されると、どちらからともなく声をかけあって集うのだ。
そして、思う存分ゲーム内でやりあうことに決めている。
いつから始まったのか定かではないが、今やそれが恒例のようになっていた。

はフェイタンの部屋で、夢中になって敵を撃つ。
ゲームの制限時間はどんどん過ぎていき、最終スコアが画面に表示された。


「ワタシの勝ちね」
「う……また負けたー……」
「あいかわらず上達しないね」


フェイタンは容赦なくを嘲笑う。全くもって優しくない男だ。
けして腕前は悪くないと自負しているが、ここのところフェイタンには負け越している。


「……フェイタン、このゲーム本当に初見〜〜〜?」
「ああ」


フェイタンはさらりと頷いた。

非常に疑わしいが、こういう時フェイタンは嘘をつかない。
はあ、とは溜息を吐いた。フェイタンはコツを掴むのが妙に上手いのだ。それが悔しい。


「もっとやりこんでおかないと……次は負けないよ!」
「楽しみにしてるね」


勝者の余裕というやつか。
何となくムカついたが、勝負は引きずらないのが鉄則だ。
気持ちを切り替えると、は徐に立ち上がった。


「じゃあ、そろそろ私」
「待つね」
「え?」


フェイタンは、素早くの手を掴んだ。
きょとんとしているを見つめる目は、何か言いたげだ。


「……罰ゲーム、忘れてないか?」
「う」


は言葉に詰まった。
出来る事なら忘れてしまっていたかったのに、フェイタンは見逃がしてくれない。


「そ、そうね。罰ゲームありだったね……」


顔を引きつらせながら、同意する。の顔色は悪かった。

罰ゲームとは即ち、フェイタンの好きな映画観賞につきあうことであった。





++++++++++++





「〜〜〜〜!!!???」
「……」


は、声にならない叫び声をあげ続けている。

映画の序盤からフェイタンの袖をぎゅっと掴んだまま、ずっと離さない。
そんなに怖いのなら目をつぶってしまえばいいものを、ちゃんと観賞はしているらしい。変なところで根性を出す。

一度、見かねて「そんなに怖いなら目を閉じていればいい」と言ってみたことがある。
その時は「次に目を開けられなくなるから観ていた方がマシだ」と返された。訳が分からない。


「……ゲームは平気なくせに」


さっきまで、楽しそうにゾンビを撃っていたではないか。
最近のゲームはグラフィックも秀逸だ。ちゃんとグロいのに。

呆れたように呟くと、は勢いよく首を振った。


「幽霊とゾンビは違うー! 倒せないじゃん!!」
「違いがよくわからないね」
「体ないじゃん!!!」


はすっかり涙目だ。
どちらもフィクションな事に変わりないだろうが、と言いたかったが黙っておいた。

テレビ画面に、不穏な音のエンドロールが流れていく。
救いようのない展開に、フェイタンの気分は上々だ。はぐったりしているが。

ようやくの手が袖を放してくれたので、フェイタンは立ち上がった。

演出に目新しさこそ無かったものの、伏線回収もなかなか上手く、よくできていた。
全体的に満足な出来だったこともあって、フェイタンの機嫌は良くなった。


「なかなか面白かたね」
「フェイタンの鬼ー!! これから私、帰るのにー!!!」


涙目のが喚いているが、気にしない。

ゲーム対戦自体は、夕方頃には決着がついていた。
しかし、それからの長編ホラー映画3本セットだ。時間は嘘のように経過してしまい、すっかり辺りは暗くなっている。


つまり――夜道を歩かなくてはならない。
街灯の明かりも頼りなく、人気も無い道を。


闇に包まれた路地に潜み、何かがこちらをうかがっているかもしれない。
あの曲がり角には、恐ろしい形相の幽霊が誰かを待ち構えているかもしれない。


そんな悪い想像ばかりしてしまう。


「幽霊に遭遇したとしても、お前が負けるわけないよ」
「そりゃ物理が効くんだったらさ……でもさ……」


ぶつぶつ文句を言いながら、のろのろと帰り支度は整える。
しかし――玄関まで来たのはいいものの、はそのまま立ちつくしてしまった。外に踏み出す勇気がでない。


「……」


ドアノブに手をかけたまま、はたっぷり悩んでいた。
さっさとドアを開けて帰れ、というフェイタンからの視線を背中に感じるが、そんな事は今はどうでもいい。


だって、ドアを開けてさっそく正面に居たらどうしたらいい?


2本目にみた映画では、マンションのエレベーターに――じゃあ、非常階段を使えば。
――いや、映画では結局そちらにも回り込んでこられて、逃げ道はなかった。


悪い想像は止まらない。
自分の溢れる想像力が心底憎い。

はドアノブから手を放し、おそるおそる振り向いた。怪訝な顔をしているフェイタンと目が合う。


「……フェイタン、あのー」
「何か?」
「……と、泊めて欲しい……」


まさか駄目とは言わないだろうが、その時のフェイタンの気分次第だ。確率でいうと、七割くらい。

フェイタンは少し考え込んだ。
は緊張しながら、フェイタンを祈るように見つめている。


「……。ワタシの好きにして良いなら」


良いのか、と視線で問われる。
はその視線にドキリとしながらも、何とか頷いた。


「それなら……うん。泊まる……ありがとう」


その意味するところは、も十分に理解している。

フェイタンがではなく、行為自体あまり好きではないが。
この際贅沢は言っていられないというか、背に腹は代えられない。


(良かった―、帰れって言われなくて)


心から安堵しながら、は再び靴を脱いだ。
タオルや着替え等のの物も多少、ここには置いてある。一泊するくらいなら十分だ。

荷物を片隅に置くと、は思いきり伸びをした。緊張して変なところに力を入れていたのか、ガチガチに固まっていた。
とりあえず誰かと一緒にいられる安心感が、心をほぐしてくれる。


「シャワー借りまーす」
「ああ」


は安心しきった表情で、着替えを引っ張り出している。
フェイタンはふと思い立って、に声をかけてみた。


。……鏡を見ないように、気をつけるといいね」
「!!!」


は弾かれたように顔を上げた。
フェイタンは、ニヤリと意地悪く笑っている。


「こっ、怖いこと言わないでよ!」
「そうか? さきの映画でも」
「わー! 思い出しちゃったじゃない!! 鬼畜!!!」


映画の風呂場でのワンシーンを思い出してしまい、は頭を振った。
忘れていたかったのに、気が緩んだ隙をついてくるなんて。


(急に怖くなったじゃないー! ……でも……シャワールームの鏡……


まさかね、と思いつつ、確かめずには居られなかった。


「……ねえ、フェイタン」
「?」
「まさか……この部屋……幽霊、出たりする……?」


今まで何度か泊まった事はある。今まで異変は無かった。
フェイタンからそんな話は一言も聞いたことがないし、は安心しきって過ごしていたが、まさか――。


(……ありえる)


もし本当に幽霊が出ようが、フェイタンは気にしないだろう。だから言わないだけで、もしかすると――。

の目には、全てが疑わしく見えてきた。

そしてフェイタンは――あろうことか、首を傾げた。


「さあ?」
「さあって何!? しっかりして家主!!」



無責任なことを言わないで欲しい。
着替えとタオルを持ったまま、はフェイタンに訴える。

ここだけは安全だと信じていたのに。かくなる上は、もうこれしかない。


「……フェイタン、一緒に……」
「……仕方ないね」


怖がらせた責任を取って貰おう。
今夜はもう、絶対に一人になりたくない。

が頼み込むと、フェイタンは仕方なさそうに立ち上がった。

子供かお前は、とフェイタンは大げさに溜息を吐くのが見えたが、は無視を決め込んだのだった。




++++++++++




シャワーを浴びながらも、はどこか落ちつかず、そわそわしている。視界に入る鏡を気にしているらしい。
それもひとえに、フェイタンがからかったせいなのだが。

彼女の長い黒髪は艶やかに濡れ、白い肌に張りついている。
水を弾く肢体が柔らかい事を、フェイタンだけが知っていた。

フェイタンは密かに笑みを浮かべる。

当の本人だけが、まだ奇跡的に気づいていない。
妙な状況になったものだなと思いながらも、楽しんでいる自分がいる。

フェイタンがその背に触れると、はビクリと体を震わせた。一瞬、怯えるような眼でフェイタンを見る。


「こ、ここでする?」
「ん」


よくわかっているようだ。
ぎこちない様子のを抱き寄せ、その白い首筋に噛みつく。

は一瞬抵抗しかけたが、すぐに諦めたようだった。素直にフェイタンに身を任せることにしたらしい。
そろりと手が伸ばされ、フェイタンの背に回る。

そう、それで良い。
フェイタンは満足そうに微笑む。

強張ったの体を、丁寧に開いていく。
時折、我慢できずにの口からは嬌声が零れる。
次第に熱を帯びていくのを観察しながら、フェイタンは唇を舐めた。


「……あっ、あの……か、がみ……って、じょうだん、でしょ?」
「ああ。別に気にすることはないね」
「もう……! 怖いのは、ヤダって……言ってる、のに」


息も切れ切れに、は訴える。睨まれるが、全く迫力はない。むしろ可愛いだけだ。
フェイタンはの頬に顔を寄せると、耳元で囁いた。


「……お前が怖がてるのを見るのが楽しいね」
「いっ……!」


のやわらかい耳を舐めた後、やんわりと噛む。
それほど強くはしていないつもりだが、の反応は良い。

悪趣味、とが小声で詰るが、フェイタンには効かない。


「まだ喋る余裕があるか」


は本当に、フェイタンの嗜虐趣味を煽るのが上手い。

すぐいれておしまい、では勿体ない。
の弱い所は、ほとんど発見し尽くしているのだから、もっとじっくり楽しまなくては。


「ま、まだ……? もう」
「まだね」


既に何度か達しているは心底手を止めて欲しそうだが、フェイタンは容赦ない。
好き勝手にしていい、と承諾したのはなのだから。逃げるのは契約違反だ。


「やっ、やだって……!」


力無い抵抗も荒い息も混ざり合って、どこからが境界かわからなくなる。
ゲームを仕掛けられている事に、が気づく日は来るのだろうか。


「……そろそろか」


フェイタンはようやく手を止めた。
は恥ずかしいと渋るが、快楽にとても弱い。羞恥心もかなぐり捨て本能を見せる彼女は、とても綺麗だ。


(全てワタシのもの)


そう思うと、殊更高揚感が芽生える。どうにも抗いがたい。
フェイタンはシャワールームの扉を開け、バスタオルを手に取った。
もう立てなくなっているの体を適当に拭くと、バスタオルで包んで抱きあげる。

さあ、存分に楽しむとしよう。




++++++++




薄っすらと朝日がさしてくる頃。
ようやくはフェイタンから解放された。戦線離脱をフェイタンは許してくれず、体力はゼロに近い。


「……何か、毎回このパターンに……」
「気のせいね」
「そうー? そうかな……」


何やら疑われているようだが、フェイタンはさくっと流す。


「少し眠るといい」
「もちろんそうする……ねむい……」


今にも眠りそうな声で、は布団にもぐりこんだ。動くのも億劫なほど疲れきっている筈。
どうしてこうなった、とは首を傾げているが、フェイタンに教える気はない。

がホラーが大の苦手なことは、フェイタンとて知っている。
怖くて帰れなくなることも。泊まりたいと言いだすことも。全てフェイタンの想定内だ。


「……ぜったい次は勝ってやる……」
「ああ、次はとびきりのを用意しておくね」


子供をあやすかのように、フェイタンはの髪をなでる。
馬鹿にされてる、とはふてくされてフェイタンに背を向けた。


「……おやすみ、フェイタン」
「おやすみ、シルヴィア」


まだが気づかないのなら、また罠にかけるだけだ。何度でも何度でも。

に幽霊耐性がつくか、それともフェイタンの意図に気づくのか。どちらが早いだろう。
今しばらくは、この攻防戦を楽しむことにしよう。






[了]








===== あとがき ===

ほのぼので夏っぽいものを(どこらへんかな?)。
読んでくださってありがとうございました!

(20122.8.13 山藤)